8.ウエイトリフティングの練習と気持ちの問題

1 現在の私の考え
 高校生を指導する段間で、トレーニング計画を作成し、それに基づいた指導をすることは当然のことですが、生徒一人一人個性があり、体力差や競技に対しての気持ちも当然のように異なってきます。指導者としてはその点を十分把握し、クラブ全体のトレーニグ計画を立案したあと、一人一人に対してはその選手の実態にあわせたトレーニング計画の変更を行うことが望ましいと思われます。
 指導者は自分自身が何を生徒に望むか(そのような選手にしたいか、どの大会で成果を上げさせるかなど)を明確にし、目先の試合や自分の感情などで練習を大きく変更させたりすることは好ましくありません。そのために一人一人の選手に対して、その選手自身が考えている自分の将来像と指導者自身が考えているその選手の将来像が一致するように努力する必要があります。指導者は選手のための補助的立場であり、その選手が技術的にも体力的にも精神的にも一人前の選手になれるようにサポートする立場にあるのです。
 高校生は、日毎に考えや行動が変化するものです。選手となって練習を続けていき成果を出すには、その選手の目的意識がはっきりしており、それが努力すれば達成できるときに初めてできることです。生徒が部活動から離れていってしまう例はいくつかありますが、
その多くは、その競技に対しての楽しみや面白みがあまりなく、他の目的でその競技を続けているときに起こる場合が多いです。目立ちたい、他人より優れたものがウエイトリフティングだった、などの面が優先してやっていると、いざそのことに失敗すると部を辞めたいと言い出す場合がほとんどです。(それ以外の例は、生徒の交遊関係の変化による場合がある。)
 自分自身が満足するような練習の成果を出すということは非常に難しいことです。この練習をやったから記録が10kg伸びた、この練習をやったからスナッチの成功率が上がったなどは1ヶ月やそこらの練習では達成できないことが多いです。それが解っている指導者がいれば毎年チャンピオンを輩出しているはずです。的を得た練習=良い結果、がいちばん良いのですが、良い結果を出すためにはその選手自身の精神的な問題(心の問題)クリアしなければ出せないことが多いように感じます。

2 私の体験談:ソウルオリンピック最終選考会から得た2つの教訓

 私自身の経験を話しますと、1988年のソウルオリンピックに出場するためには国内選考会に出場し、協会が設定した記録をクリアしなければ選考されませんでした。第一次選考会ではその設定記録は60kg級で275kgでした。その記録を狙うあまり、自分の実力以上の記録からスタートし(スナッチ120kg、C&ジャーク145kg)、結果的にはそのスタート重量で終わってしまいました。最終選考会では少し協会の選考方法が緩和し、最初にその設定重量に達した選手を選考し、次にその記録をに近い記録を出した選手を選考するといった選考方法に変わりました。60kg級ではそのとき既に村木選手(現在岩田選手)が前年の世界選手権大会入賞(記録は282.5kg)で代表権を得ていましたのであいている代表席は1つでした。ですから、まず60kg級で優勝することを第一目標に、その次に275kgを挙げることを第二目標にして試合に臨むことにしました。そのときのライバル選手は自衛隊体育学校の城間選手と大学の後輩である竹田選手の二人でした。城間選手は試合で270kgはやれる力がありましたし、竹田選手も調子が良ければ、 270kgを超える可能性がありました。とにかく自分では270kgを最低ラインに考え、
そのトータルをスナッチ2本成功、C&ジャーク2本成功の4本成功で達成できるスタート重量を考えました。私の試合のベストはスナッチ130kg、C&ジャーク157.5kgでした。しかしこれは67.5kg級での記録でした。60kg級ではスナッチ120kg、C&ジャークで145kgでした。そのため、トータルで270kgに達するためには次のスタ
ート重量の方法がありました。(この時のルールで1回目から2回目には5kg以上の増量2回目から3回目には2.5kg以上の増量が必要となっていた)

1回目 2回目 3回目
S1 115 120 122.5
S2 117.5 122.5 125
S3 120 125 127.5
J1 140 145 147.5
J2 142.5 147.5 150
J3 145 150 152.5

2本ずつの成功で270kgを出せる組み合わせは、S1とJ3、S2とJ2、S3とJ1の組み合わせです。どの組み合わせも6本成功すれば275kgになります。そう考えると無理をしてS3とJ3の組み合わせをする必要がなくなると考えました。
 第一次選考会の結果(S3とJ3のスタートで1本ずつの2本成功)を考え、スナッチ122.5kgクリアを絶対条件とするS2とJ2の組み合わせによるスタートすることに決定しました。
 結果的にはその考えが上手くいき、5本成功の272.5kgで優勝し、オリンピック代表の座を獲得することができました。しかし、前の晩にベットの中で色々なことを考えました。自分が勝っている場面、自分が負けている場面、思うように挙がらなかったことなどさまざまなことが頭の中を駆けめぐりました。しかしそのときに自分自身で割り切ることができたことは、練習は自分自身がやってきたことである、作戦も自分自身で決めたことである、結果的に次の日上手くいかなかったら自分自身の努力が足りないと神様が言っているのだ思い、結果を神様に預けることができました。これで負けても自分のせいだという開き直りが良い結果をだせ、動きに思いっきりがでたのではないかと思いました。
 この試合で得た教訓がもう一つあります。最後にジャークで150kgを狙いました。この150kgを成功すると協会の設定記録の275kgに達成し、文句なく代表に成れたのですが、ライバルに勝ったという気持ちと272.5kgであれば代表に成れるだろうという気持ちが147.5kgを成功したあとに湧き出てしまって自分の心に隙ができたと思います。その結果、150kgに失敗し、竹田選手に逆転のチャンスを与えてしまいました。結果的には竹田選手は逆転の155kgを失敗したため勝つことができましたが、もし成功されていたら、そのときは悔やんでも悔やみきれなかったと思います。勝負事は終わってみないと勝ったとは言い切れないという教訓も学びました。

3 練習に対しての自分の気持ち

私の学校では自己記録を狙える日が決まっており、その日になると記録を更新しようと練習に取り組んでいます。しかし、毎回練習で自分の状態が良いとも限らなかったり、アップを適当に行うためにアップ不足で挙がらなかったりする場合があります。試合でもそういう記録を狙う日については前日からの心の準備が大切になってきます。練習当日に記録測定日ということを気づいていてはなかなかいい結果を出すことはできませんし、万が一自己新記録が出ても、それは偶然に体調が良かっただけなのです。練習の良い結果が試合に出せるようにするためには、そういった記録を狙う日に対しての気持ちを徐々に整えて行く事が大切だと思います。
 練習には目的があり、その目的を考えなくて練習することは、目的を考えている人の半分以下の成果しか上げられないと考えても言いと思います。例えばパーセンテージの低い練習の時に、試合のアップの最初の状況を考えながら練習に取り組むとか、自分の動きの悪い点を修正しようと考えて練習に取り組むなど、自分自身の課題を常に見つけ、一つ一つの練習に取り組む姿勢を習慣づけることが同じ練習をしながら成果を速く出すコツなのではないかと思います。練習の負荷(パーセンテージ)は体への負荷を考えて設定しますが、練習の目的意識については自分自身で考え進めていく必要があります。コーチはそのれを上手くサポートするようにして、選手は自分の練習のポイントをどこに置いたらよいかをコーチと相談するとよりよい結果が生まれると思います。そういった練習後との自分の目的意識を明確にすることにより、その日の気分で練習内容が変化するなどと言ったことや、試合結果が思うようにならなかったなどのことは少しずつ減少すると思います。
 
4 技術的な問題の解消

 技術的な問題の解消は誰でも悩むことだと思います。技術的な問題は非常に単純なものから、難しいものまでさまざまあります。選手自身が考え努力することは非常に大切です。しかし、技術は初めて1〜2年の選手がその問題点を考え修正することは難しい場合が多いです。やはり、経験のある指導者に指導してもらい、修正する必要があると思います。現在日本の指導者は、自分の体験を自分の指導に生かしている場合がほとんどです。私自身もそうなんですが、以外と自分の指導方法や技術的な問題が正しいと思っている場合が多く思います。技術的な問題の幾つかは、優秀な指導者が現在とっている方法以上の方法があるかもしれません。
 技術的な問題を解消するときに、いちばん困ることは選手と指導者との間に考え方の溝ができるときです。選手自身が「私にはそんなことができない」という拒否的反応が起きた場合は、その問題点は解消しません。また技術的に高度な技術を習得する場合には筋力的な面や、練習によってできる細かい筋肉の動きがある程度できるようにならないとできないものもあります。自分があの選手のようになりたいと考えても、それができるようになるには、それなりのトレーニングを考え実行しなければできない場合があります。
 新しい技術を習得する場合、すんなりそのことが吸収できることであれば問題ないのですが、自分がやって来たことをすべて直して取り組まなくてはいけない場合もあります。そういったときには相当な覚悟で練習しないと、結局練習に費やした時間が無駄になります。

5 私の技術的な問題の解消例

 私が大学生の時にいちばん苦手な種目がジャークでした。ジャークの上手い先輩のフォームを見て真似したり、色々試してみましたが、自分自身で技術的に何がいちばん問題なのかが解らないままでした。しかし、大学4年生になり、67.5kg級で全日本クラスに挑戦するとスナッチでは1位か2位になれるのに、ジャークでは3位、その当時一番強かった平良選手とはジャークベストで15kgの差を付けられていました。私のベストが157.5kg、平良選手は172.5kgでした。スナッチで2.5kg勝っても、ジャークの1回目で逆転されてしまっていつも2位でした。67.5kg級の日本での1流になるにはトータル300kgを挙げることでした。私のスナッチは132.5kg、トータルは290kgでした。しかし練習でクリーンは165kgを成功しており、もう少し本気で練習すれば170kgはできると思っていました。しかし、ジャークでいつも失敗し、160kgが一回挙がっただけが精一杯でした。さまざまな工夫した練習をしたり、上体の力をつけるために毎日プレスを練習しましたが成果が出ませんでした。そして大学は卒業し、地元に戻って一人の練習になりした。
 地元に戻って半年が過ぎ、オリンピックの選考会まであと8ヶ月となった頃、安藤謙吉先生から「ジャークのフォームを直さなければダメだ」と言われ、フォームの改造を決意しました。安藤先生といったらジャークのテクニックは日本一と言われていましたので、一つ一つ基礎からやり直しました。最初にジャーク動作を行うときの最初の姿勢であるセットの姿勢づくりから行いましたが、私はその姿勢から間違っていました。私の場合肩や肘関節が硬い方で、肘が開いて伸びていき、ジャークで失敗するということが多かったのですが、その原因がセットの姿勢の悪さだったのです。人間の体は立ったまま胸を張ったままの姿勢で肘を伸ばそうとすると肘が開くことが多くなります。肘や肩関節が柔らかい選手はその姿勢でも上手く肘を伸ばすことができますが、そうすると肘が曲がってしまう場合が多くなってしまいます。私の場合は調子が悪くなるとその傾向が顕著になってしまって疲れてくると比較的軽い重量でも苦しい状態でジャークをやらなければならなかったのです。技術的な問題点が解って自分でフォームがすぐに矯正できるようになると思っていましたが、そんなに甘い物でありませんでした。最初はその姿勢をとることに違和感を感じました。ある程度その姿勢がとれるようになっても、ある程度の重量になると理想姿勢を維持することができなかったからです。それは姿勢を維持するための筋肉ができていなかったからでした。その筋肉を鍛えるためにプッシュプレスとフロントスクワットを多く練習に取り入れなんとか、4ヶ月くらいになるとよい姿勢がとれるようになりました。その後、前述したソウルオリンピックの選考会で67.5kg級から1階級下げた60kg級でオリンピック出場するくらいの記録を挙げられるようになれました。それはそのフォーム改造が上手くいった証拠だと思っています。
技術的な裏付けがあり、それに基づいて練習を積むことで、試合はで自分の動きを修正できたり、バーを握って少し引き上げた状態の時や、ジャークのセットの時にこの試技が成功できるかどうか解るようになるはずです。挙げてみなけりゃ解らないでは安定した試合結果はだせないですし、勝負になったときに自分自身のポイントがぼけてしまって、失敗する確率が高くなります。技術的な裏付けを自分なりに理解し、それに基づく練習をすることが大切です。

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