この手引書は,品質マネジメントシステム規格ISO9000ファミリーに対する「プロセスアプローチ」の概念,意図,及び応用を理解するためのものです。また組織の種類や規模に関係なく,どの様なマネジメントシステムに対してもプロセスアプローチを適用するために,この手引きを使用できます。これは以下のマネジメントシステムを含みますが,限定するものではありません:
-環境(ISO14000ファミリー),また,この手引きは,用語に関して,プロセスの種類とプロセスの使用に関する一貫した取り組み方を促進することを目指しています。
プロセスアプローチの目的は,定義された目標を達成する場合に組織の有効性と効率を高めることです。
プロセスアプローチの利点は以下のとおりです:
「プロセス」とは,「インプットをアウトプットへ変換する相互に関連する,又は相互に作用する一連の活動」と定義されます。これらの活動には,人々や素材などの資源の割り当てが必要です。図1は一般的なプロセスを示します。
他のアプローチと比較した場合,プロセスアプローチの大きな強みは,プロセス間の相互作用のマネジメントとコントロール,及び組織の部門・階層間のインタフェースのマネジメントとコントロールにあります(セクション4で詳細説明)。
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インプット及び意図するアウトプットには(機器,素材,コンポーネントなどの)有形のもの,又は(エネルギーや情報などの)無形のものがあります。また浪費や汚染などの意図しないアウトプットもあります。
個々のプロセスには,そのプロセスに影響される顧客及び(組織の内部,又は外部の)その他の利害関係者が居ます。彼らのニーズや期待に従って,要求するアウトプットが定義されます。
システムというものは,データ収集のために使われるべきです。このデータは,プロセスパフォーマンスに関する情報を提供し,是正処置や改善のニーズを決定するために分析されます。
全てのプロセスは,組織の目標と整合させ,付加価値を与えるように設計され,組織の範囲と複雑さとに対応しているべきです。
プロセスの有効性と効率は,内部又は外部のレビュープロセスにより評価できます。
プロセスには以下の種類があります:
-組織をマネジメントするためのプロセス。 これには,戦略計画,方針の確立,目標の設定,コミュニケーションの提供,必要な資源の利用可能性(アベイラビリティ)の保証,マネジメントレビューに関するプロセスを含みます
-資源をマネジメントするためのプロセス。これには,組織のマネジメント,実現,及び測定のためのプロセスに必要な資源を提供する全てプロセスを含みます。
-実現プロセス。これには,組織の意図するアウトプットを提供する全てのプロセスを含みます。
-測定,分析,及び改善プロセス。これには,パフォーマンスの分析のための測定とデータの収集及び有効性と効率の改善に必要なプロセスを含みます。これらは,測定,監視及び監査のプロセス,是正処置,予防処置を含み,マネジメント,資源のマネジメント,及び実現プロセスにとって絶対必要な部分です。
4. プロセスアプローチの理解プロセスアプローチは,組織化や活動の仕方をマネジメントするための強力な方法です。これらが,顧客及びその他の利害関係者のための価値を生み出します。
組織は部門毎の階層に構造化されます。通常,組織は垂直方向にマネジメントされます。意図するアウトプットに関する責任は,部門の間で分割されます。全ての関係部門が,最終顧客又はその他の利害関係者を常に見ているわけではありません。その結果,部門間の境界で起こる問題は,部門の短期目標より優先度が低くなります。通常は,全体的な組織の利益よりも,部門の活動に焦点が与えられます。この結果,ほとんど又はまったく,利害関係者のための改善は導き出されません。プロセスアプローチにより,水平方向のマネジメントが導入されます。これにより,異なる部門間の障壁を横断し,組織の本来の目標に活動の焦点を集中できます。また,これによりプロセスのインタフェースのマネジメントも改善できます(図2参照)。
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組織のパフォーマンスは,プロセスアプローチの使用により改善できます。プロセスのネットワークとそれらの相互作用を創造し,理解することによって,プロセスはシステムとしてマネジメントされます。
注:一貫性を持ったネットワークの運用は,マネジメントの「システムアプローチ」と呼ばれます。
ひとつのプロセスのアウトプットは他のプロセスへのインプットであり,全体のネットワークつまりシステムに連結されます(一般例として,図3と図4を参照)。
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図4.プロセス連鎖及びその相互作用の例。
以下の実施方法はどのような種類のプロセスにも適用できます。このステップの順序は,一例であり,規定的なものは意図していません。同時に実施されるステップもありえます。
プロセスアプローチのステップ | 何をすべきか? | 手引き |
5.1.1 組織の目的の定義 |
組織の意図するアウトプットを定義するために,組織は,それらの要求事項,ニーズ及び期待だけでなく,その顧客,及びその他の利害関係者を明確にするべきです。 |
顧客及びその他の利害関係者の要求事項,及びその他のニーズと期待を収集し,分析し,決定して下さい。それらの要求事項,ニーズ,及び期待の継続的な理解を保証するために,顧客及びその他の利害関係者と頻繁にコミュニケーションして下さい。 品質マネジメント,環境マネジメント,労働安全衛生,マネジメント,ビジネスリスク,社会的責任,及び組織内で適用されるその他のマネジメントシステムの分野に関する要求事項を決定して下さい。 |
5.1.2 組織の方針と目標の定義 |
要求事項,ニーズ及び期待の分析に基づき,組織の方針を確立します。 | トップマネジメントは,組織が取り組むべき市場を決め,適切な方針を展開するべきです。これらの方針に基づき,意図するアウトプット(例えば,製品,環境パフォーマンス,労働安全衛生パフォーマンス)のための目標を設定するべきです。 |
5.1.3 組織内プロセスの決定 |
意図するアウトプットを生み出すために必要な全てのプロセスを明確します | 意図するアウトプットを達成するために必要なプロセスを決定して下さい。これらのプロセスには,マネジメント,資源,実現,及び測定と改善を含みます。 供給者,顧客及び(内部又は外部の)その他の利害関係者に加えて,プロセスの全てのインプットとアウトプットを明確にして下さい。 |
5.1.4 プロセス連鎖の決定 |
連鎖と相互作用のなかで,プロセスがどのように流れるかを決定します。 | プロセスのネットワークの種類とそれらの相互作用を定義し,展開して下さい。以下を考慮して下さい:
注:例えば,結果として(顧客に配達された製品などの)アウトプットを生じるプロセスは,(マネジメント,測定と監視,及び資源供給プロセスのような)その他のプロセスと相互に作用します。 ブロック図,マトリクス,フローチャートなどの方法やツールは,プロセスの連鎖及びそれらの相互作用の展開をサポートするために使用できます。 |
5.1.5 プロセスオーナーの定義 |
責任と権限を個々のプロセスに割り当てます。 | 管理者は,個々のプロセス及びその相互作用の実行,維持,及び改善を確実にするために,個々の役割と責任を定義するべきです。 通常,そのような個人を「プロセスオーナー」と言います。 プロセスの相互作用を管理するために,「プロセスマネジメントチーム」を設立することが有益であるかもしれません。このチームは,それらのプロセスの全てを横断して俯瞰し,相互に作用する各々のプロセスからの代表者を含みます。 |
5.1.6 プロセス文書の定義 |
文書化すべきプロセスを決めます。 | プロセスは組織内に存在します。最初のアプローチは,最も適切な方法でプロセスを明確にし,マネジメントすることに限定すべきです。「カタログ」又はプロセスのリストが全然ない場合は,文書化しなければなりません。 文書化の主な目的は,プロセスを一貫して安定に運用できるようにすることです。組織は,どのプロセスを文書化すべきであるかを,次の観点で決定するべきです:
プロセスの文書化が必要な場合,グラフィック表現,説明書,チェックリスト,フローチャート,映像媒体,電子的方法などのような多数の異なった方法が使われます。 |
プロセスアプローチのステップ | 何をすべきか? | 手引き |
5.2.1 プロセス内活動の定義 |
プロセスの意図するアウトプットを達成するために必要な活動を決定します |
プロセスに要求されるインプットとアウトプットを定義します。 インプットを要求されるアウトプットに変換するために要求される活動を決定して下さい。 プロセス内の活動の繋がりと相互作用を決定し,定義して下さい。 どのように個々の活動が実行されるかを決定して下さい。 注:場合によっては,プロセスを実行する方法を,顧客が指定します。 |
5.2.2 監視・測定の要求事項の定義 |
何処に,どの様に測定と監視を適用すべきかを決定します。これには,プロセスのコントロールと改善,またプロセスの意図するアウトプットがあります。
結果を記録することの必要性も決定します。 |
プロセスの有効性と効率を決定するために,プロセスのコントロールとプロセスパフォーマンスの測定と監視の基準を明確にして下さい。これには,以下の要素を考慮します:
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5.2.3 必要な資源の定義 |
個々のプロセスを効果的に運用するために必要な資源を決定します。 | 資源の例には次のものが含まれます:
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5.2.4 計画された目標に対するプロセスの検証 |
プロセス特性が組織の目的と首尾一貫していることを確認します。(参照) | 5.1.1において明確にされた全ての要求事項が満たされていることを検証して下さい。もし満たされていなければ,どの様なプロセス活動が付加して要求されかを考え,5.2.1に戻り,プロセスを改善して下さい。 |
組織は,実施のためのプロジェクトを展開します。それには次のものを含みますが,これに限定されません。
計画通りに測定,監視,及び管理を実施します。
プロセスパフォーマンスを定量化するために,プロセスの監視と測定から得られたデータを評価します。ここで適宜,統計的手法を使用します。
プロセスパフォーマンスの測定結果と定義されたプロセス要求事項を比較し,プロセスの有効性,効率,及び是正処置に対するニーズを確認する。
プロセスパフォーマンスのデータに基づき,プロセスの改善機会を明確にします。
適宜,プロセスパフォーマンスをトップマネジメントに報告します。
問題の根本原因を取り除くために,是正処置を実施する方法を定義すべきです(問題の例として,エラー,欠陥,適正なプロセスコントロールの欠如を含む)。是正処置を実施し,その有効性を検証して下さい。
継続性を基本にし,計画されたプロセスの要求事項がいったん達成された場合,組織は,プロセスのパフォーマンスをより高いレベルに改善するための活動に,その努力の焦点を合わせるべきです。
改善の方法を定義し,実施すべきです。改善の例には,プロセスの単純化,効率の向上,有効性の改善,プロセスのサイクルタイムの低減が含まれます)。改善の有効性を検証して下さい。
潜在的な問題を明確にするために,リスク分析ツールが使用できます。これらの潜在的な問題の根本原因を明確にし,是正すべきです。そして,全てのプロセスにおいて,同様にリスクを明確にし,その発生を防止します。
PDCAサイクルに関しては,数多くの言語で大量の報告書が存在します。
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PLAN | 目標,及び顧客要求事項と組織の方針に従って結果を引き出すのに必要なプロセスを確立します; |
DO | プロセスを実行します; | |
CHECK | 方針,目標,及び製品要求事項に関連して,プロセス及び製品を監視・測定する。そしてその結果を報告します; | |
ACT | プロセスパフォーマンスを継続的に改善するために,行動します; |
PDCAは,組織内の各プロセス,及びそれらの相互作用に関して展開できるダイナミックな方法です。これは,計画,実行,検証,及び改善と本質的に関連します。
組織内の全てのレベルでPDCAの概念を適用すれば,プロセスパフォーマンスの維持及び改善ができます。PDCAの概念は,高レベルの戦略的プロセスから簡単な作業活動にまで,同じように適用できます。