先週の話題でキログラム原器についてふれ、この中で「不確かさ」の概念でトレーサビリティが確立されていると説明しました。この「不確かさ」という用語について今週は考えてみます。
計量法では、計量器の検定(又は検査)では「器差が検定公差(又は使用公差)を超えないこと」となっております。器差(instrumental
error)はJISZ8103「品質管理用語」によると「測定器が示す値から示すべき真の値を引いた値」と定義されており、計器の誤差(error)のことです。従って、現状では誤差という概念でトレーサビリティが構築されていると言ったほうが正確です。
一方、「不確かさ」(uncertainty)は「真の値が存在する範囲を示す推定値」と定義され、真の値は計測できないことを前提に定義した「誤差」に代わる概念です(詳細はISOの「計測における不確かさの表現のガイド」参照)。従って、「不確かさ」と「誤差」は、同じ目的で使いますが、多少意味合いが違った新しい概念です。
先週話題としたキログラム原器にも10-8kgのオーダーの「不確かさ」がありますから、計量法で器差と称している値も、検定しようとしている計器と、ある不確かさを持った上位の標準との差であり、「器差」で真の値としているものも「不確かさ」を含んでいることになります。
この不確かさは以下のようにして求まります。
@Aタイプの標準不確かさ(uai):統計的方法によって求めた不確かさ(サンプルの標準偏差)
ABタイプの標準不確かさ(ubj):統計的方法以外の方法による不確かさ
B合成標準不確かさ(uc)=(Σuai2+Σubj2)1/2
拡張不確かさ(U)=包含係数(k)×合成標準不確かさ(uc)
なお、包含係数はk=2(信頼限界95%、2σに相当)が推奨されています。
表 計測・分析・試験の性能に関する用語の意味と日本語訳の現状
英語 |
日本語訳 |
用語の意味 |
true value |
真の値 |
測定値の正しい値 |
error |
誤差 |
測定値−真の値 |
bias |
かたより |
測定値の母平均−真の値 |
dispersion |
ばらつき |
測定値の不ぞろいの程度 |
precision |
精密さ、精度 |
ばらつきの小さい程度 |
trueness |
真度 |
かたよりの小さい程度 |
accuracy |
正確さ、精確さ |
真度と精密さを含めた総合的な良さ |
uncertainty |
不確かさ |
真の値が存在する範囲を示す推定値 |