大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム 

赤い

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僕:「気づかない方言」という学術語があるが、当サイトの最重要の課題でもあるね。
君:自身が方言を話しているという意識がなく、つまりは折り目正しく共通語・標準語を話しているつもりでも、実は共通語にない言葉、標準語として認められない言葉の事ね。地方出身で俳優を目指す御方にとっては切実な問題となり得るわね。
僕:NHK朝の連ドラ「ひよっこ」の助川時子がそうだった。つい出てしまう茨城方言で苦労する。特にアクセント。実は先ほど、アクセント辞典を見ていて愕然とした。口語「あかい赤」のアクセントは平板だったのか。僕は、つまり飛騨方言話者だが、中高アクセントで話してきた。今年はいよいよ68歳になるが、僕自身のアクセントがおかしいですよ、と教えてくださる人は一人もいなかった。命長ければ恥多し、というわけか。色を表す形容詞は多いが、とりあえず代表的な色だけを内省してみた。
  形容詞  標準語  飛騨方言
赤 あかい  ◯●●  ◯▼◯
黒 くろい  ◯▼◯  ◯▼◯
白 しろい  ◯▼◯  ◯▼◯
青 あおい  ◯▼◯  ◯▼◯
黄 きいろい ◯●●● ◯●▼◯
n,B. ◯=低;●=高;▼=アクセント核(下がり目).

君:ほほほ、赤と黄色はアクセントを矯正したほうがいいかしら。
僕:うーん、今更だな。どれだけ注意していても、ついポロリと飛騨式アクセントが自然に出てきそうだ。でも、いい方法を思いついた。「あか・くろ・しろ・あお」は標準語も飛騨方言も頭高なので「あかい〜」と言わずに頭高で「あかの〜」と言えばいいんだよ。これならいけそうだ、がはは。蛇足だが「き黄」は標準語ではアクセント核があり頭高なので、これも頭高で「きいの〜」と発音すれば問題ない。
君:それを言うなら、あなたはいっその事、「〜い」というのをやめて「〜色の」の形で平板で発音すれば方言丸出しアクセントがなくなっちゃうわよ。
僕:なるほど、それも妙案だね。ただし、上記は終止形の問題。形容詞とて用言、つまりは活用する。標準語アクセントでは「くろい・しろい・あおい」の三色の未然・連用・連体・仮定は全て頭高らしい。飛騨方言では活用してもアクセント核は二拍目から移動する事は無く、相変わらず中高だよね。こんなところにお宝が潜んでいようとは。方言の神様と握手した瞬間だった。NHKと三省堂、二社のアクセント辞典を眺めながら、つい先程、気づいてしまった。一時間前には知らなかった世界がどんどん広がっていく。ああ、アクセントの世界はどうしてかくも複雑なのだろう。
君:よかったわね。あなたは三度の飯よりも方言がお好きなようね。
僕:それに僕が大好きなのが天下のNHK様にお伺いする事。新版では形容詞活用のアクセントまで記載してくださって、それが本日の記事になっているのですが、どうして命令形をお書きにならないのですか。「くろかれ・しろかれ・あおかれ」は「か」にアクセント核がある中高アクセントでよろしゅうございますか?
君:「あかい」と「きいろい」を活用させるとどうなるのかしら。
僕:これは標準語と飛騨方言で同じだった。「あかい」の場合は「か」にアクセント核があり不動。つまりは飛騨方言ではすべての活用で「か」にアクセント核があるが、標準語では終止形、連用形、連体形ではアクセント核が消失し、平板になる。僕にはこのアクセントは無理。67年以上も飛騨方言のアクセントでやってきて何ら不自由はなかったのです。勘弁してください。
君:「きいろい」はどうかしら。
僕:こちらは連用形が問題となる。標準語は平板アクセントだが、飛騨方言ではすべての活用で「ろ」にアクセント核があるため中高になる。
君:アクセントの事を黙々と文字で書いていてもだめよ。ユーチューブで発信しなきゃ。話してなんぼの方言なのよ。
僕:それも勘弁してください。顔も声も自信が無い。
君:それは皆様がよくご存じ。でも納得なさらない。
僕:最後にひとこと。これで勘弁してね。
君:どういう事。
僕:飛騨方言の色形容詞が可笑しなアクセントである事はわかった。ただし、飛騨方言のアクセントって文語形容詞のアクセントとおなじだよ。「あかい◯●●」は「あかし◯▼◯」。「かなしい」「つめたい」もそう。
君:確かにそうね。
僕:ただし口語平板型形容詞だから当てはまるだけの事。
君:どういう事。
僕:口語中高形容詞は文語頭高形容詞になる。「いたい◯▼◯」は「いたし▼◯◯」。飛騨方言でも「いたい◯▼◯」。つまりは飛騨方言のアクセントは文語形容詞のアクセントとおなじにならない。
君:要は、飛騨方言ではなんでもかんでも第二拍目にアクセント核がある中高形容詞であり活用してもアクセント核は移動しない、という事ね。
僕:どうもそのようでございます。67年も人間をやってきて、つい先程、知りました。「きいろ(い)」の場合は飛騨方言では「ろ」にアクセント核があって、これも活用に関わらず不動。「あかい」だけは文語の名残なのではないかと考えたい。
君:ほほほ、行きつくところ、あなたはいつも飛騨方言の古語・文語ロマンスね。

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