大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム |
ない(形ク、無) |
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僕:アクセント学といえば一昔前は金田一春彦先生、故人におなりで、現代の第一人者は木部暢子先生だろうね。東大から九大へ、そして男性から女性へとバトンタッチされたわけだ。金田一先生がアクセントにのめりこんだきっかけは類聚名義抄だ。研究は平曲考で結実する。余談はさておき、NHKのアクセント辞典をよく見ると飛騨方言のアクセントとは異なる記述が次から次へとみつかり、これは大変な事を発見したという気持ちだ。飛騨方言のアクセントは東京式内輪系、つまりは老舗のアクセントだから首都圏のアクセントとの違いなんかあるはずがない、と思い込んでいたのがうかつだった。 君:まずは活用してみてね。 僕:うん。NHKは、ナ\イ、ナ\カッタ、ナ\ク、ナ\クテ、ナ\ケレバ。飛騨式は、ナ\イ、ナカ\ッタ、ナ\ク、ナ\クテ、ナケ\レバ。すぐ気づく事は連用形と仮定形でのアクセントの違い。 君:終止形「ナ\イ」は一致しているし、「ない」の語幹は「な」であり、NHKつまり共通アクセントは活用の種類にかかわらず語幹にアクセント核があるという事で整合性が保たれているのに、飛騨方言のアクセントは変ね。 僕:思うに飛騨方言では実は形容詞の活用は形容動詞のように、つまりはナリ・タリ活用のように、自ラ変「あり」が「なし無」連用形に接続しているからじゃないのかな。つまりは「なかった」は「なかりた」つまりは「無くありたり」の複合動詞で「あり」の語頭にアクセント核があり、「なければ」も同様で「無くあれば」の複合動詞で「あり」の語頭にアクセント核があるという事で。 君:とんでもない。形ク・形シクは奈良・平安で完成しているから、そもそもが完了・過去「けり・たり」に接続しようと思えば「無し」の連用形にして「なかりけり・なかりたり」、「なかりければ・なかりたれば」。 僕:つまりは上古に中央では「な\かりけり・な\かりたり」、「な\かりければ・な\かりたれば」だったのかな。飛騨方言の上古のアクセントは「なか\りけり・なか\りたり」、「なか\りければ・なか\りたれば」だったという事だと思うんだけれど。要は飛騨方言では「か\り」にアクセント核があった。これは更には「くあ\り」とも考えられるので、つまりは「あ\り」にアクセント核があった事を示すような気がするけど。 君:それはロジックが一歩も進んでいない説明で、つまりは卵・鶏論争なのよ。 僕:逆の発想で行こう。共通語と飛騨方言ではアクセントが一致するのは、接続助詞「て」が終止連体と連用形単体及び連用形に接続する場合。要はこういう事、形容詞「ない」が文末にあるか、あるいは助詞に接続する場合だ。 君:ほほほ、要するに飛騨方言のアクセントは「あり」が内在すれば、「あり」を含む音節にアクセント核が移動し、「あり」が内在しなければ「な\し」のアクセント核は移動しないという事ね。 僕:要はそういう事。世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし。これって「か」にアクセント核があるような気がするんだけどね。若し「な」だとすれば、僕の場合は関西っほくて聞いていられないな。関西の皆様、ゴメンナサイ。 君:たへて(妙、形動タリ)アクセントのなかりせば記事はあらまし。ほほほ |
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