大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム |
こそあど、のアクセント(愛しい貴方様) |
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僕:場所を示す指示代名詞こそあど(ここ・そこ・あそこ・どこ)は別名が近称・中称・遠称・不定称とも言うが、中学校の時の文法だったかね。さて、共通語における場所を示す指示代名詞は四種類とも平板アクセントだ。現に三省堂アクセント辞典にもNHKアクセント辞典にもそう明記されている。飛騨方言とて平板アクセントだ。 君:当り前じゃないの。そんな事より表題の「愛しい貴方様」ってどういう意味なのよ。例文でお話ししてみてね。 僕:あれっ、飛騨方言ネイティブならアクセントで使い分けているんじゃないの。 平板「ここに◯●▼携帯がある。」 頭高「ここは▼◯◯ええなあ(貴方様は素敵ですね)。自慢の娘さんたちがみんな、ええどこへ嫁ぎんさって。」 君:判ったわ。そういう事ね。飛騨方言では頭高アクセントだと近称・中称ではなく、自称・対称になるのよ。 僕:その通りだ。飛騨方言では「ここ」「そこ」に関しては平板アクセントと頭高アクセントの二通りの言い方があって、意味が明瞭に区別される。 平板「ここ・そこ」 近称・中称 頭高「ここ・そこ」 共に対称 「あ・ど」に関しては平板・頭高が両方あって意味は同じで「遠称・不定称」。ただし平板「あそこ」は三拍モーラ◯●●になるものの、頭高「あそこ」の「そ」は母音の脱落で二モーラ▼◯で発音。 君:なるほど。飛騨方言で「ここ」「そこ」を平板アクセント○●で発音する場合は「この場所」「その場所」の意味だけど、これが頭高アクセント「ここ▼○」「そこ▼○」だと途端に意味が変わって「ここに住む人(=いとしのあなたさま)」「そこに住む人(=いとしのあなたさま)」を示すわね。 僕:「ここ▼○」「そこ▼○」共に「あなた」の意味だけど「ここ▼○」は相手宅へお邪魔している時しか使えないし、「そこ▼○」は相手宅へお邪魔していない時しか使えない。何の事は無い、「ここ▼○」も「そこ▼○」も対称だ。 君:つまりは「ここ▼○」「そこ▼○」共に自称で使う事は出来ないという事なのよね。この辺の使い分けは飛騨方言ネイティブなら瞬時に理解が出来る事でしょうけど、飛騨方言話者でないとマスターするのは難しいという事かしらね。 僕:その通り。僕達のような飛騨出身者にとっては当たり前すぎる論理なのだが。古語辞典にはそのあたりの記載がある。例えば「ここ此処」ば近称の指示代名詞の意味以外に、対称の代名詞。話し手の近くにいる相手をさす。源氏の例文などがあるが平安時代から「ここ此処」をアクセントで自称・対称の二通りに使い分けていたのだろうか。 君:さあ、どうかしら。文学作品なら文脈で攻めるしかないわよ。 僕:全国的にこそあどは平板アクセントだろうが、おっとどっこい、明治書院・現代日本語方言大辞典が手元にある。例えば全国の「ここ此処」のアクセントの分布だが、頭高が実は、十津川、山口、大分。そして飛騨という訳だ。大分の場合、場所を示すとの注があった。 君:でも飛騨方言でのアクセントは場所を示す事もあるし、時には「愛しい貴方様」の意味なのよね。 僕:その通り。飛騨方言では共通語と同じく「ここ」「そこ」「どこ」が平板の場合、近称・中称・不定称を意味する。飛騨方言の遠称は平板「あそこ」ないし頭高「あすこ」であり、「あこ」はアウト。 君:更に付け加えるに。つまりは今日の要点をお願いね。 僕:はいはい、飛騨方言では共通語と異なり「こそあど」を頭高でも用いる。この場合、「ここ」「そこ」は共に対称を意味する。遠称「あそこ・あすこ」が頭高の場合、遠称の人を示す。「どこ」の場合は共通語と同じく不定称を示す。 君:つまり飛騨方言では遠称「どこ」は平板及び頭高のアクセントの揺らぎがあるが、意味は不定称で変わらないのね。 僕:角川古語大辞典全五巻には「ここ此処」の説明が十通りある。 君:やれやれね。 僕:ところが意外にも単純な記載なんだ。「ここ此処」自称の場合は謙譲、対称の場合は尊敬。「そこ」よりも「ここ」のほうが親愛の情が大きい。飛騨方言の頭高アクセントの指示代名詞は古語に由来するものに違いない。カレーCoCo壱番屋の「ここ」も古語に由来する頭高指示代名詞をひねったとしか考えられないね。意味もピッタリだ。 君:なるほどね。恋人同士なら「ここ」「そこ」を頭高で連発すれば相手との一体感が生まれるという訳なのよね。無意識に何となく使っている飛騨方言でも意外や意外、なかなかお洒落な言い方もあるのだわ。ここにも知ろしめす事や侍りつらむ。ほほほ 追加の例文 嫁ぎ先の家で嫁が姑に言う言葉「私のようなおぞくたい(貧しい)家からここ▼◯(お宅様)のお家に嫁げて幸せです。」 嫁ぎ先の家で姑が嫁に言う言葉「なにをいいんさる。そこ▼◯(貴方)のご実家みたいな立派な家からこんなあばらやに嫁いでくださって、もったいのうて、わしらこそ幸せじゃさ。」 |
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