飛騨方言・きやす、は共通語の消す、に相当します。
また、古語辞典によりますと、消すの古語は、けつ(消つ)、であり、平安時代には漢文訓読体・仮名文字ともに用いられたが、
けす、の形が漢文訓読体に使われるようになったために、鎌倉時代以降は、けす、の形のほうが一般的となった、とあります。
さて、きやす、は、けす、あるいは、けつ、が更に語変化した言葉でしょうか。答えは否、でしょう、なぜなら一語増えたわけですから。
つまりは、きやす、は、けす、の古い言い方・けつ、よりもっと古い言葉の可能性があります。
きやす、が、けつ、に変化したのでは、という言う意味になりますが、
あるいは、また推量ですが、きやつ、という幻のタ行古語動詞が存在したのかもしれません。
話を戻してそもそも、きやす、が古語に由来する言葉であることは、例えば鳥取方言に同意のことばがあることから明らかです。
http://www.mahoroba.ne.jp/~gonbe007/hog/doshi/kiyasu.html
鳥取と飛騨には何ら地理的に、はたまた文化的に深いつながりはありません。
あるいは書き言葉の世界は、きやす、けつ、けす、の順に語変化した、
つまりサ行動詞がタ行動詞を経て、再びサ行動詞に戻ったのでしょうか。
あるいは、きやつ、けつ、けす、と変化したのでは、と考えるほうが素直なような気もしますが、推量の域を出ません。
また、きやす、は飛騨方言特有の言い回し、サ行動詞のイ音便、が必ず生ずる動詞です。
きやす、に関しては(飛騨)俚言に属するサ行動詞はイ音便化する、という原則が当てはまります。
これは語幹が同じのカ行動詞が存在しない、つまり、きやく、という動詞が存在しないので、
きやいて、と発音すれば、消やして、のイ音便化以外の可能性は考えられず、
つまりは、きやいて、は、消して、という意味に他ならなくなるためです。