飛騨方言・つばけ、は、つばき、ないし、つば、の意味で用いられますが、この語変化というのがなんともはや、
佐七には奇妙に思える点がいくつか、あります。
き、の語が、け、に化けるという現象は、何も飛騨方言に限ったわけではないようで、
つばきの意味で、つばけ、というのは全国各地の方言に見られます。
さて、つば、と、つばき、は厳密には意味が異なります。つば、とは唾液の事で、あのねばねばした液体そのものです。
実は古語に、つばく、という動詞があり、唾吐く、と言う漢字を当てはめます。そして、唾吐く、の名詞形が、つばき、です。
回りくどい説明になりましたが、平成の世、方言の世界はいざしらず、
古語の世界ではつばを吐く動作、が、つばき、です。つばそのものではありません。
ここで問題としたいのは、飛騨方言・つばけ、は名詞・つば、に接尾語で修辞的に、け、の字を付けたのか、
あるいは、唾吐くの命令形・つばけ、を名詞形に転用している、ウルトラ飛騨方言文法なのか、という疑問です。
佐七としては、ウルトラ飛騨方言文法のほうが俄然、話が面白くなると思って、およそ百個の動詞について、
ひたすら内省による実験をしましたが、該当動詞はゼロでした。飛騨俚言動詞も該当なし、全滅です。
ついで、け、で終了する名詞をあれこれ調べて見ましたが、どうも、つばけ、以外に該当の名詞なし。
例えば、かわら(瓦)とかわらけ(土器)、あるいは、水、とみずけ(水気)。
水の気配のことをみずけ、というのでしょうが、つばの気配がつばけ、ではありません。
くどいようですが、どうしてつばだけが余分に、け、をつけるのでしょうか。
どうしてつばだけが命令形が体言となるのでしょう。
またまたくどいようですが、つばけ、は全国各地の方言です。つまりは
飛騨の人間だけの問題ではない、日本人の語感、日本人の舌の動きに関する問題です。
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