大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム

ぞうやく・飛騨方言

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飛騨地方の郷土史に、雌馬・ぞうやく、が記載されていますので、 筆者なりに気にはしておりました。 戦前の生まれ育ちの筆者の両親の口からは直ぐに出てくる言葉 というわけですが、現在、飛騨地方では馬の飼育は無いも 同然、つまりは死語という事なのでしょうね。 戦後生まれの筆者も実は聞いた事がなく、郷土史漁りでみつけた この言葉を両親に聞いた所、二人の記憶が 蘇ったという次第です。

実は各種方言資料に既に記載されていたこの単語ですが、 歴史考察をも加えた、
小林隆、方言が明かす日本語の歴史、岩波書店
が白眉です。 氏の考察は、雌馬・ぞうやく、は室町中期から江戸初期まで 使用された言葉で、各地の方言として残ってきたようです。 文献考察もあるので筆者は、エッ、と思って旺文社古語辞典を 引っ張りました。
ざふやく雑役。名詞。ざふやくうま・雑役馬の略。
ざふやくうま雑役馬。名詞。雑役に使う牝馬・ひんば。
やはり、記載されているじゃありませんか。 古語辞典から飛騨方言を再発見する感激は筆者は実に一年ぶりです。 俚言でない以上は必ず古語辞典を繰る事、 これが語源探しの大原則です。 若しかして報われないかも知れないが、諦めずに夢を持つ事。

さて、牡馬は古来から使役、軍用に重用され価値が高い生き物とされ、 体力の点で劣る牝馬は雑役にしか用いられない、 というのが語源である事は書かずもがな。 各種の方言地図をみますと、ぞうやくという単語は何と言っても信州を 中心に中部山岳で用いられる広域方言です。 変わった所としては、秋田県の一部・由利郡・雄勝郡や 群馬県吾妻郡の方言でもあるそうな。

また雌馬をダマ・駄馬という地方が東北、四国、九州に広がり、 つまりは古来、平安・鎌倉時代にまずダマが始まり、 室町時代あたりからゾウヤクが中部山岳で話されてきたという、 まさに方言周圏論の好例である単語、というのが 多くの方言学者の説くところだそうで。

この事を両親に早速に話さなくては、 二人は何も知らなくて死んでしまいます。

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