大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム 

全国の順接確定表現に関する一考察

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私:「雨なので傘が要る」の文章を順接確定というが、「雨だ」が確定事項、そこへ順接確定の接続助詞「ので」が加わって更に当然の結果の文章「傘が要る」につながる。東京「ので」vs 京阪神「さかい」の東西対立がある事は子供でも知っているが、中国・四国・九州では「けん」を用いるね。「雨やけん傘が要る」。西部日本における原因・理由表現の分布と歴史
君:順接確定の接続助詞は、口語も文語も「ので、から、ば、と、て (で) 」あたりね。「けん」の語源に相当する言葉は古語には無いような気がするわ。でも不思議ね。「けん」の語源はあるはず。何かしら。方言ロマンスだわね。
私:パッと思い浮かぶ事だが、推量の助動詞「けむ」がある。「けむ」の撥音便「けん」が語源かな。
君:ほほほ、あきれちゃうわね。安易な発想ね。接続の点でアウトなのよ。順接確定の接続助詞「ので、から、ば、と、て (で) 」の重要な共通項は終止連体形に接続する事なのよ。「けむ」の接続は連用形よ。そもそも助動詞が助詞になるかも、という発想自体がアウトね。「けむ・けめ」で活用すらするのよ。あなた、頭がおかしいわよ。
私:そうか、みごとに一本、取られたな。では順接確定の助動詞と言えば「けむ」以外には「けり」の已然形「けれ」 +「ば(接続助詞)」があるね。「ければ」が西日本「けん」の語源だろうか。古文漢文徹底研究「ければ」「けれー」「けー」「けん」なんちゃって。
君:嘆かわしき妄想の世界ね。とてもお付き合いできないわ。キモイのひと言よ。「けり」も、やはり連用形に接続、つまり可能性は全く無いわよ。繰り返しになるけれど、そもそも接続が連用形の助動詞が接続助詞になるかもという発想がアウトなのよ。
私:わかった。勘弁してくれ。二本も取られた。では、名詞で語源を考えよう。上代語に「から柄・故」、原因・理由を表す和語の名詞がある。接続助詞「から」の語源は名詞「から」だ。大抵の古語辞典に記載されている。万葉集三七九九「己(おの)が身のから人の子の言(こと)も尽くさじ」[訳] 自身のために、人なみにあれこれ言いはしますまい。つまり、名詞から格助詞「から」が生まれたんだよ。続いては接続助詞「から」の用法が生まれるが、この国語事件は室町自時代からだから(親父ギャグ)、接続助詞「から」は中世語だな。
君:おおっ、おみごと、今度は私が一歩やられたわ。近世語では「からは」とも言うわね。口語でも使うわ。恋しいからは結婚したい女心。若しかしたら「ければ」「からは」の使い分けがあったのかしらね。「恋しければ已然」「恋しからば未然」「恋しいからは終止」、音韻は本当に近似しているわよね。ほほほ
私:「ものから」からとも言うね。これが「もので」「もんで」への変化だろうか。奥の細道 末の松山「さすがに辺土(へんど)の遺風忘れざるものから、殊勝に覚えらる」そうは言ってもやはり田舎らしく伝統を忘れないで今に伝えているので、奇特なことよと感心せずにはいられなかった。「ものから」「からは」あたりがが古語の確定接続の言い回しだろうね。
君:いやだ、それもうなづけるわ。二本取られてお相子ね。話はそれるけれど共通語でも「から」「ので」の使い分けが問題なのよね。外国人には意味の差の理解が困難ね。「から」「ので」
私:ひとくくりで順接確定といっても沢山の品詞の集合だ。つまりは、ひとつひとつに別々の語源があるという事だよね。
君:その通りよ。ひとつの可能性としては複数の名詞という事ね。接続助詞「から」の語源は「から柄・故」という具合に。
私:小学生でも判る例が順接確定の接続助詞「ゆえに」だ。「ゆゑ故」が語源である事は書かずもがな。Cogito ergo sum 我思ふ故に我あり。蛇足だが、「故」から「ゆえん所以」が生まれたのだろうね。
君:接続助詞「て・で」あたりは確定の順接/動作や作用の継続/並立/補助の関係/を示す等々、多機能だけれど「お腹が減って死にそうだ。/帰ってすぐ食べる。/美しくて明るい。/観衆が見ている。」、「て手」、つまり手段あたりが語源かしら。ただし活用が全て連用形なのよね。
私:英語では順接確定は全て副詞句だ。 therefore, hence, so, then, thus, consequently,
君:ほほほ、英語の医学論文ね。お世話になったのよね。
私:古い話だがね。話を戻そう。上記論文の方言地図からの抜き書きだか、順接確定の方言文末詞は、カラ、ガラ、カリ、カイ、カラニ、カラン、キャーニ、ケ、ケー、ケーニ、ケン、セン、キニ、ケニ、キ、キー、サカイ、サカイニ、サカ、スケ、スケニ、ステ、ハデ、ハンデ、ンデ、デ、ニ、ヨッテ、ヨッテニ、ンダンガ、クトゥ、トゥ、バ。随分あるもんだね。ここまで書けば、流石に「けん」の語源が見えてくる。
君:ほほほ、please do not mention it 結論が丸わかりだわよ。「ケン」は「カラ」のグループの一員だわね。別のグルーブとしては「サカイ」「スケ」「ハンデ」「ヨリテ」「デ」などに小分類されるという事じゃないの。
私:That's exactly what I want to say そのようだね。広辞苑には上方方言「さかい」の語源は「境」であるとの記載もあった。方言文末詞「ケン」は「カラ」の音韻変化だ。間違いない。本日の結論だ。
君:方言周圏論的にはどういう事かしら。
私:とても良い質問だ。上代は全国で「から」だった。これが関東では今でも使われる。ところが中国・四国・九州では「から」から「けん」への音韻変化が生じた。上方では「から」が廃れて「さかい境」が出現し、現代に至る。「さかい」は文献的には近世語だ。つまり「から」「けん」は古い。「さかい」は新しい。
君:あなたが少し国語の勉強が出来たので、ほほほ、いよいよ核心部分の質問をさせていただくわ。順接確定の接続助詞の語源が実は「らむ」「けむ」では有り得ないたったひとつの理由があるわよね。ふふふ
私:ちょこざいな。ああ、あるとも。「らむ」は未来の推量、そして「けむ」は過去の推量。順接確定はテンスとしては現在形の世界だ。「らむ」「けむ」はテンスの点でアウトだ。語源にはなり得ない。
君:そう、順接確定は現在形の世界なのよ。だから終止連体の世界なのよね。これこそ本当の結論よ。現在の世界、つまり目の前で「美味しいけん食べんさい」と唐突に言われても、日本人なら「けん=から」で同根の接続助詞という事が瞬時にわかるけん「美味しいさかい食べなされ」という意味である事がすぐに理解できるのよね。ほほほ

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