大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム 

学習指導要領

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私:最近の小学校では国語の時間に方言を教えているそうだ。
妻:そんな事、あるわけないでしょ。
私:ええっ、そうだったのか、と気づくようになったきっかけがある。
妻:とは。
私:今の時代はユーチューブを通じた方言情報の発信が多い。方言ユーチューバさん達がやたらと、標準語、という言葉を使うんだ。端的な現象だ。
妻:どこがいけないの?方言を標準語では何というか、というお話だから当たり前じゃないの。
私:確かにそうかもしれない。ただひとつ、ここで気づかされる事と言えば、彼らは、共通語、という言葉を使わない。何故なんだろう、僕はずうっと不思議で仕方なかった。
妻:彼らといっても世代があいまいよ。
私:コンテンツには概ね、主役として出演なさっているわけだから、概ねが若い大人、つまりは三十代以降、という事になろうかと思う。
妻:つまりは彼らの世代とあなたには共通語・標準語の二語の使い分けに世代格差があるけれど、はてその原因は何だろう、という疑問ね。そもそもが、あなたは皆様に共通語という言葉を使っていただきたくて、標準語という言葉は使っていただきたくないような口ぶりね。
私:そうなんだよ。方言学なるものを少しかじっているが、共通語という言葉は使うが標準語という言葉は使わない。僕が拘るのは学術語。あるいはヨハネによる福音書・・In the beginning was the Word.・・はじめに言葉ありき、だな。
妻:同じ意味なんでしょ。
私:確かに同じような意味。でも、同じではない。戦後の教育では国語教育において標準語という言葉は使わず、共通語という言葉を使うようになった。
妻:あなたは1953(昭和28)の生まれ、小学校の国語では標準語教育を受けたのじゃないのかしら。
私:いや、厳密に言うと共通語教育を受けたという事じゃないかな。少なくとも初等中等教育(小中高)で方言の教育は受けていないね。受けた教育は現国、古文と漢文。
妻:あなたは今や古文と方言の結びつきの解析に夢中なのね。
私:うん、まあ結構面白いね。あまり深い学問とは言い難く、雑学的な要素が大きいが、なにせ助動詞活用表をやぶにらみすればいいだけの謎解きなので簡単と言えば簡単。
妻:自分も小学校の時代から方言について学べばよかったな、と思っているのね。
私:いや、思っていない。それは逆だ。子供のころから方言のカラクリを学んでいたら、大人になって方言学に心奪われる事は無かっただろう。この歳になって方言を独学しているから、それなりに面白くて、だから続けられるんだよ。脱線した。共通語の話に戻ろう。何時頃からの言葉だと思う?
妻:さあ。
私:戦後だ。厳密には1949。国立国語研究所が福島県白河市で行った言語調査で使われ出した。白川方言と東京語の発音の程度の違いの調査。ところが結果は惨憺たるもので一致点がほとんど無し。調査したかったのは東京語の発音の白川方言発音への影響。つまりは作戦は変更を余儀なくされた。基準とすべきは東京語ではなく、必ずしも東京語とはいいがたいが、東京に近い発音、つまりは全国的にみてほぼ通用する発音という事に皆様がお気づきになった。この基準を「共通語」と定義しよう、という事で生まれた言葉なんだ。つまりは当初は国語教育の現場の言葉ではなく、方言の研究者の間で仮の名称として採用されたもの。戦前は言うに及ばず、戦後もしばらくは標準語という言葉が使われていて、方言の研究といえば標準語との差について論じられていた。
妻:なんだか衒学的なお話ね。
私:或る意味ね。方言マニア以外にはどうでもいい事なのかもしれない。話をすすめよう。僕の大胆な予想では、「共通語」という言葉をお使いにならなくて「標準語」をお使いになる方言ユーチューバさん達はズバリ、平成20年に小学校中学年以上であった方々ではないだろうか。
妻:どうしてそう考えたの。
私:僕の小学校入学は1690春だから国語で「方言と共通語」という単元は学んでいない。
妻:ほほほ、わかったわ。文部科学省サイトにアクセスして国語学習指導要領の歴史をあれこれ調べたら、どうやら平成20年辺りに「方言と共通語」単元がスタートしたのよね。
私:その通り。この事から、また幾つかの事がわかる。
妻:勿体ぶらずに、列挙してみてね。
私:国立国語研究所の文部科学省への影響。方言学の学術語「共通語」が国語学の言葉となり、「方言と共通語」単元が誕生した。
妻:平成20年と言えば娘たちは社会人と大学生だったわね。なるほど二人は「方言と共通語」単元を学んでいないのね。
私:そう。我が家の大人は全員が「方言と共通語」単元を学んでいない。
妻:だから私も娘達も標準語と共通語の区別は気にせず、というか標準語という言葉しか使わない。ところが私達の三人の孫は何年か後には「方言と共通語」単元を学ぶに違いない。ほほほ
私:そう。孫たちが学ぶ方言の内容を決めるのは愛知県教育委員会。そして現代の小学生、というか二十代までの人達は「方言と共通語」単元を既に学んだ人達だから、逆に標準語という言葉を知らない。或いはこの人たちは「標準語とは若しかして共通語の事かな」という国語意識が有るに違いない。
妻:ほほほ、更に面白い事に気づいたわよ。
私:えっ、どういう事。
妻:方言ユーチューバさんは共通語の意味で標準語という言葉を使っているのよ。標準語の意味で標準語という言葉をお使いという事ではないわ。現代社会において戦前の言葉「標準語」の概念は既に死語。「標準語」なる音韻は「共通語」という概念で生きている言葉。
私:なるほど。言い換えれば、古い世代には標準語と共通語の意味の差は無い、という国語意識だよね。これを方言学で「階級方言」と言う。
妻:その通り、世代の違いという階級方言なのよ。やれ標準語・共通語とおっしゃっていたのは戦後まもなくの事で、これだけ文化が全国共通になってしまえば、原点回帰、標準語という言葉を復活させてもいいのよ。
私:いや、それはないだろう。平成20年から「方言と共通語」単元の名前で教科書は突っ走っている。既に10年以上たっているんだ。
妻:あなた、標準語という言葉をお使いになる方言女子や方言男子の方々をリスペクトなさいね。貴重なネット情報なのだから。
私:勿論だよ。文部科学省の十数年がなんだってんだい。頑張れ、標準語派の皆様!でも、僕は本当に気が小さい人間なんだ。恥ずかしくて標準語という用語は使えないなぁ。
妻:ほほほ、あなた、若しかして、大好きな・・。
私:そう。先ほど来、 standard usage, common usage, thesis, guide line, etc. でググり始めて、はて英語はどないなってんの、と思い始めた。少し判り始めたが、また別の機会に。
妻:やれやれ、チコちゃんでやってるわよ。また英語かよ・つまんねぇ奴だな、って。

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