大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム |
ギア方言とは |
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私:このサイトではギア方言について何回も取り上げているので、この際は独立したコーナーを設ける事にしたよ。 君:全国の皆さま向けへの情報発信という事ね。ギア方言の定義は? 私:ではあらためて。岐阜県と愛知県でギア方言だ。中部地方の方言の中でもこの両県は共通する事が多いので、ひとつのグループと考える。 君:大阪方言と京言葉は似通っているから、日本人なら両者を合わせて関西方言というようなイメージでいいのかしら。 私:その通り。名古屋市と岐阜市は電車でちょいの隣町、同じ通勤通学圏と言った感じの濃尾平野に位置する二大都市だから、言葉も似ていて当り前という感じだね。 君:岐阜県といっても美濃と飛騨では方言が異なるわよ。岐阜市の美濃方言に合わせて高山市が行政文化の中心である飛騨方言もギア方言に含まれるのね。 私:ああ、含まれる。しかしながら三重県と静岡県は含まれない。四県を合わせて東海地方というが、東海弁という言葉はない。東海地方においては三重県に限っては極端なばかりの関西系の方言なので、当然ながら愛知県と三重県を合わせて伊勢湾地方の方言という概念も全くない。静岡県は明らかに東京に近く、東国の方言という事でギア方言には含まれない。愛知県の豊橋の言葉はギア方言と言ってもよいが、ホンの数キロ東側の静岡県浜松市の方言はギア方言とは言わない。 君:飛騨地方は、高山市が端的な例だけど大分水嶺の日本海側、つまりは富山市や金沢市にうんと近くて、高山から岐阜市や名古屋市への距離は倍近いのにそれでもギア方言なのね。 私:高山が裏日本なのに東海地方と呼ばれるたったひとつの事件が明治初期にあった。天領飛騨はなくなり、高山市と信州松本を合わせて筑摩県が出来た。ところが松本の新県庁舎がこれを嫌う不逞の輩の放火の被害に合い、窮した明治政府は松本市を長野市にくれてやり、高山市は岐阜市にもらわれる事になった。かくして飛騨・美濃併せて岐阜県が誕生し、以後は高山市は文化・行政等々において岐阜市・名古屋市と深く結びつくようになる。当然の結果として飛騨(高山市)・美濃(岐阜市)・尾張(名古屋市)の方言には共通項が多くなり、ギア方言と呼ばれるようになった。 君:そんな子供向けのようなお話ではなく、出典を示さなければ駄目よ。ここの読者の皆様は皆さまが目利きばかりだわよ。 私:何気なく今まで使ってきたが、当然、そのような質問になると思って手元の資料を調べた。この言葉が方言学の成書に出てくるのは 都竹通年雄著(平山輝男 序・山口幸洋 解説) 都竹通年雄著作集第1巻、音韻・方言研究篇、ひつじ書房 第一部 音韻研究篇 第二部 アクセント研究篇 第三部 音声教育篇 第四部 方言区画論篇 都竹通年雄著作集第2巻、文法研究篇、ひつじ書房 飛騨萩原方言における動詞と形容詞との活用 方言文法 方言語法 全国方言のテンスとアスペクトについて 中部地方の方言の文法この文献の最後の章、中部地方の方言の文法 pp108-113、に出てくる。故・都竹通年雄先生(元富山大学教授)は下呂市萩原町尾崎のご出身で、戦前から戦後にかけての唯一の飛騨出身の方言学研究者。日本の方言学は東条操の方言区画論から始まった。東海東山方言の提唱者。都竹先生は東条先生の一番弟子。都竹先生は東海東山方言の下位分類としてギア方言(岐阜・愛知)、ナヤシ方言(長野・山梨・静岡)を提唱した。 君:なるほどね。あなたがギア方言に熱くなる気持ちがわかるわ。 私:私は生まれも育ちも高山市、そして家内は生まれ・育ちが名古屋。四十年近い夫婦だが、夫婦の会話が実はギア方言、つまりは東京や大阪では通じない、という言い回しが随分ある、という事に気づかされてきた。方言学では「気づかない方言」「気づかれない方言」と表現するが、この辺りが方言と言うものに対する興味の端緒となる人が多いそうだ。 君:岐阜県と愛知県は、ひとつには中部山岳の線ともうひとつは白山と木曽三川を結ぶ線、このふたつの大方言境界に挟み撃ちされている地方である事が一番の特徴かしらね。 私:そうだね。それとギア方言が三重県の方言と異なる事から言える事がもうひとつ、どちらかというと東京に近い方言という事で、ギア方言は断じて関西系の方言ではない。 君:東京に近い、という事では漠然とした言い方だわね。もう少し具体的にお話しくださらないかしら。 私:うん、二つの点に集約されるかな。ギア方言は東京式のアクセントである事と、ワ行五段動詞(i.e. ハ行四段)が促音便である事(笑ふ・笑った、言ふ・言った、沿ふ・沿った)。細かい事を言えば切りが無い。あくまでも日本全体を眺めてザクッと考えると、という話。 君:ならば東京へ行って東京人に成りすますのは簡単で、関西へ行って関西人に成りすますのは至難の業ね。 私:確かにそうなんだが、そこが落とし穴。東京語ではなく、ギア方言である事がすぐにばれてしまう。ギア方言同士の夫婦には娘が二人いるが、当然ながら娘達が話す言葉もギア方言。これを娘に教えてやると家族で思わず方言談義に花が咲く事がある。そして四人の合言葉が「東京に行ったらポロリとギア方言が出ないように注意しようね」。 君:なるほどね。 |
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