大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム |
あねかえし(飛騨の和菓子) |
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私:昨晩は飛騨方言動詞「あねる(こねる)」についてお書きし、派生語「あねかえし」も紹介した。 君:今更、議論する事も無いわよ。 私:でも共通語では「こねまわす」、従ってこれの派生語は「こねまわし」だよ。 君:確かに。こねかえす、とは言わないわね。 私:いや、共通語では「こねくりかえす」と言うんだ。複合動詞で後方成分が「かえす」となるものはざっと二十ほどあるが、返、で決まり。唯一の例外が、ひるがえす翻。これとて、ヒラヒラと返す、からきた言葉のようだが。 君:結局は何を言いたいのかしら。 私:「こぬ捏」が中世語で、「こねる捏」が近世語だ。そして小学館方言大辞典に記載があるのは「あねる」のみ。それだけを言いたい。 君:つまりは小学館方言大辞典には「あぬ」も「あねかえし」も記載が無いという事ね。 私:その通り。そして小学館方言大辞典の出典は土田吉左衛門「飛騨のことば」。同書は昭和三十年辺りの辞書。これから幾つかの事がわかる。 君:なるほど。動詞「あねる」があって、それから派生した言葉が「あねかえし」。これは間違いないわね。 私:その通り。ところで先ほどはネットサーフィンで民間語源を発見。和菓子「あねかえし」の味に感動した食材レポーターが、ついでに地元の人々に語源についてお聞きした内容。 君:民間語源というからには、左七君的には明らかな間違いの語源という事ね。 私:その通り。そのネット記事によれば、この菓子の生地は小麦粉とヨモギの葉を根気よく練って作る事から来ているのであって、つまりは「あねかえし」という意味不明の言葉の語源は「ねってかえす」事から来ているというもの。無邪気というしかない。 君:あなたの仰りたい事は、つまりは、「あねてかえす」から「あねかえし」が語源ですよ、という事ね。 私:勿論。それ以外に有り得ない。それに「あねる」の成立は明治あたり、近代語の飛騨方言であろうし、昭和三十年の旧高山市街には「あねかえし」という言葉が無かった事も判明した。つまりは「あねかえし」は戦後の言葉です。 君:飛騨方言話者も少なくなり、戦前辺りの事はわからなくなってきたわね。 私:「あねる」という言葉だって、僕なりに民間語源をお披露目したい。つまりは、こじつけ。 君:ほほほ、どうぞ。 私:生地は兎も角、中身がなんといっても左七の好物。アンコだ。これとて練って練って粒あんにしないといけない。意味、わかるよね。 君:ほほほ、アンコを練るから「あねる」とでも仰りたいのね。 私:世の中にはこんな事を簡単に信じてしまう人が多いから恐ろしい。 君:ヨモギを練るから、よねる、とは言わないし。 私:小麦粉を練ることを「こねる」という。これは共通語として正しい。だからと言って「粉+練る」が語源ではない。語源は自ナ下二「こぬ捏」。 君:罪のない言葉遊びだけれど、語源とは言え学問的に間違った説というのは許しがたいわね。「ねってかえす」は間違いね。ほほほ |
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