大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム |
はさ稲架 |
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私:そう言えばこんな飛騨方言もあった、という事で先ほど思い出したのが「はさ」。刈り取った稲を掛けて乾燥させるために木や竹、丸太などを組み合わせた小設備、稲掛けの事。稲刈りが終わるや刈り終わった場所に急拵え(こしらえ)する。数日乾燥させたら脱穀するが、「はさ」は直ちに分解して翌年用に小屋にしまい込む。 君:山水画などにも描かれるわよね。古語なんでしょ。 ![]() 私:勿論、古語。第一に秋を代表する俳句の季語だよね。早速に本題だが、「はさ」は「はさむ」他マ四が語源で、角川古語大辞典全五巻には記載がある。動詞の名詞化といえば連用形。なので「はさみ」という言葉が出来たが、「はさみ」は源氏の語彙、つまり平安。ただしこの場合、握りの部分がU字形をした和ばさみ。支点で刃を交差させた裁ちばさみが文献に出で来るのは「和漢三才」で、近世では医療にも使用したとの記載がある。 君:方言の世界はどうかしら。 私:「はさ」は飛騨方言はじめ、全国各地の方言になっているね。また音韻変化も様々と言ったところだが、一見して「はさ」からの変化であるとわかるような音韻。 君:「はさみ」は尾高で「み」のアクセントの核があるから、「はさ」も尾高で「さ」にアクセントの核があるのよね。 私:ああ、そうだね。短呼化すると必然的にそうなる。ところで「はさ」は2モーラであるが、理由がひとつ、いや、二つばかりあるよね。 君:短呼化の理由から考えると、生活上、使用頻度が高く、しかも同音衝突が起きない2モーラは最終着地点という事なのよね。 私:。うん、そうだ。日本語で1 モーラという究極の短縮形が存在しにくいのはね、 1 モーラの長さが語形成で新たに作り出される語には不適格であるからだ。 この1モーラ語を禁止する制約を言語学では最小語条件(minimality constraint)という。「いね」「はさ」「なる(はさに用いる木)」「みの」「こめ」「わら」「こえ肥」等々、使用頻度が高ければ2モーラに落ち着くことが多いね。ただし全国各地の方言ともなると「はさ」そのものを「はさかけ」という複合語の表現があり、音韻の数が増えてしまっている地方もある。 君:稲架の方言で「はさみ」の地方は無いかしら? 私:ははは、当然の質問だね。答えは否。全国の何処にも「はさみ稲架」という言葉は無い。というか、そもそもが古代から「はさみ」の方言量は1なんだ。魏志倭人伝にも記載が有るようだが、当然ながら中国からの輸入品だった。やかて古代日本では青銅器時代と鉄器時代が同時に来てしまって、ただし硬さにおいては青銅器は鉄器に対抗すべくもないから、青銅器は催事に用いられるようになり、鉄器が農耕はじめ各種の道具として使われるようになったようだ。近世に至るまで用いられてきた方法が「たたら製鉄」。炉に空気を送り込むのに使われる鞴(ふいご)が「たたら」と呼ばれていたために付けられた名称なんだよ。砂鉄や鉄鉱石を粘土製の炉で木炭を用いて比較的低温で還元し、純度の高い鉄を生産できることを特徴とする。かくして出来上がった鉄道具「はさみ」は古語として不動の地位を獲得したようだが、古語にも「はさみ〜、〜ばさみ」の複合語は多い。「はさみ」はさて置き、晩秋から初冬にかけてと言えば、「わら打ち」と「縄ない」だね。この機械、我が家にもあった。懐かしさのあまり、ついアップ。 君:ワイワイとなんだか楽しそう。 私:孫に見せたら目を輝かすだろうな。機械が好きなんだよ、僕の孫は。 君:あら、新幹線とプラレールじゃなかった?毎日、レールのレイアウトを考えるのに夢中とか言ってたじゃない。 |
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