大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム |
ひきがえる |
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私:ひきがえるの事を飛騨方言では「ドーサイ」という。アクセントは「ドーサ\イ」。 君:どんなカエルだったかしら。 私:気味が悪いなんてもんじゃない。共通語で「がまがえる」とも言うが、体長は20センチにもなる。体は太く、四肢は短い。動作はのろい。皮膚は粗くて大小のイボがびっしり、頭の両側にある隆起、即ち耳腺から白色の乳汁毒液を分泌する。これが世にいう「ガマの油」。薬として売る商売。というか、日本の伝統芸、ガマの油売り。 君:縁日のパフォーマンスね。古典落語にもあるわよね 私:おや、落語は好きかい。実は家内が大好きでね、私をよく寄席に連れて行ってくれる。それはさておき、どうして「ドーサイ」というのだろう、語源は何だろうと、十年以上も悩んで来た。 君:あらら、つまりは「どーさい」は飛騨の俚言ね。 私:その通り、と言いたいところだが、富山方言に「ドーシャ」がある。若しかして飛騨方言「どーさい」の音韻変化かも、と考えたい。 君:「ひきがえる」の方言量はどのくらいかしら。 私:それはとても良い質問だ。ざっと百か二百だろう。詳細な国研地図がある。こことここ。なかでも東北地方の方言「びき・びっき」等が有名だね。 君:飛騨方言の中での方言量は。 私:それもとても良い質問だ。土田辞書だが、かさどーさい、かさどつ、かさばば、がま、どーさい、どーしゃ、ひき、ひきだ、ひきどーさい、ひくだ、ふくだ、以上11個だ。 君:ほほほ、要素がみえるわね。「かさ」「ひき(ひく・ふく)」「どーさい」「た」。 私:Explicit as well as implicit, 異論は無い。そして全国に百以上の「ひきがえる」の方言だが、やはり要素が見つかる。「かさわくど」があるから、「かさ」は共通要素という事が判明した。「ごんぜわくど」「いしわくど」「かまばくど」「たんのばくど」があり「わくど・ばくど」辺りも共通要素と考えられよう。ところで「ど」を含む方言を抜き書きすると飛騨方言の「(かさ)どーさい」と「わ(ば)くど」以外に見当たらないんだ。従って飛騨方言「どーさい」の「ど」と「わ(ば)くど」の「ど」は同根なのだろうか。ところで最頻出の音韻の「わくど」って一体全体、何の意味なんだい??えい、こん畜生。 君:ほほほ、焦らないでね。ところで古語のアプローチは。 私:逆引き辞典のお出ましだね。三つある。たにかこ、たにぐく、ひき。特に「ひき」は堤中納言、猿蓑あたりに文例があり、和語だね。 君:でも小動物で方言量が多いのは子供が勝手に名付けるからで、古典文学は関係ないわよね。 私:然り。その点がいつも僕を悩ませる。結局は、飛騨の大昔の子供達がかってに「かさどーさい」と名付けたと言ってしまえば、それまでだが。 君:それに「どーさい」は死語なんでしょ。 私:ははは、死後なものか。僕が子供の頃、と言っても戦後だが、村の山、谷、沼、等々、どこに「どーさい」が住んでいるかは大腿、わかっていて、皆で怖いもの見たさにドーサイ・ツアーをしたものだ。 君:ほほほ、女の子はそんなツアーはしないわよ。一つわかったわ。「どーさい」の名前は男の子がつけたのよ。 私:だろうな。全国のヒキガエルの方言、これは全て男児がつけた可能性がある。がはは 君:語源にちっともたどり着かないわね。 私:泣いても笑っても、語源は古語辞典に求めるしかない。一般的には大人が話す言葉を咀嚼して子供は言葉を覚えるものだ。 君:それで古語辞典にあったのかしら。 私:角川古語大辞典全五巻のお出ましだね。「ひき」の記載があるが、飛騨方言には「ひき」の音韻が無いからアウト。「たにかこ」と「たにぐく」にして然り。 君:つまり打つ手なし。 私:ところが立派なもので角川古語大辞典には「かさ笠」の記載が当然あって、そのひとつがキノコの頭部。これは正にヒキガエルの頭部と形が同じなので、当然ながら語源としては有力だと思う。 君:「どーさい」に似通った音韻の古語は見つかったのかしら。 私:ああ、見つかった。「どうざ同坐(座)」、同じ場所にじっとしている事。日葡、六波羅殿家訓、義経記、難波物語。つまりは笠+同座が「かさどーさい」の語源じゃないかと思う。 君:ほほほ、俚言だからどこにも記載が無いのよね。当サイトが日本初の情報発信のおつもりかしら。 私:「どーさい」は僕にとって決して死語なんかじゃない。子供の頃、それはついこの間のように感ぜられるが、村のあちこちに生息していたヒキガエルの飛騨俚言だ。頭は笠のようで、そして動かぬ事・山のごとし、同じ場所にじいっとしているカエルだった。だから、これは僕の心の問題。大昔に俺みたいなガキが大西村にいて「ひき」の事を「笠同座」と名付けたんだろうな、という飛騨方言の古代ロマンスに僕は今、ひたっている。 君:あなた、落語の「ガマの油売り」も、縁日のパフォーマンスも大好きでしょ。 私:ああ、好きだね。縁日のショーだが、本当に血を流すとは凄い演技だな、と思ってしまう。 君:ほほほ、あれって単なる手品なのよね。あなたのようなだまされやすい子供が目をキラキラさせながら見つめていると役者さんも演技のし甲斐があるわね。 まとめ 「どーさい」という飛騨俚言は筆者にとって懐かしすぎる言葉なのですが、語源についてはサイトの開設以来、つまりは十年以上も考えあぐねています。語源学のイロハですが、笠同座、こういうのを民間語源というのですね。学問的には多分、間違いです。 |
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