大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム

いらみ(おはじき)

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私:ここは方言サイトなので、一般の方々にはなかなかご興味を持っていただけないのじゃないだろうか。
君:ほほほ、良くわかっていらっしゃるわね。
私:そのような方々はおいといて、飛騨方言ではオハジキの事を「いらみ」という。
君:ほほほ、早速に語源宛てゲーム開始ね。
私:そう。先ほど、そう言えば「いらみ」という言葉があった、と思い浮かんで語源にたどり着くのに一分とかからなかった。
君:色が沢山のビードロのオハジキだから「色み」という所かしら。
私:いや。そうではない。そういうパッとした発想の事を民間語源というんだよ。つまりは学問的には間違い。方言学での戒めの言葉だ。
君:あらら、失礼しました。古語辞典に記載があるのね。
私:そう。「えらむ選」(他マ四)の連用形「えらみ選」が語源だ。
君:あら、そうなの。確かに各種の色のビードロをあれこれ選んで遊ぶわね。
私:実を言えば、僕も君と同様でまずは「色み」が語源かもと思いつつ、小学館日本方言大辞典全三巻で「いらみ」をまずは参照したんだよ。
君:記載があったのね。
私:ああ。飛騨方言との記載があった。飛騨方言である事には違いない。
君:若しかして、全国各地の方言になっているし、音韻的にも各種の変化があるのよね。
私:正にその通り。「おはじき」を意味する全国の方言は、いらみ、えらみ、よらみ、よらめ、いらみき、いらみこ、よらみこ、よらめこ。以上だ。「いらみ」は飛騨・尾張の方言。
君:なるほど尾張から飛騨へ言葉が伝わった可能性があるわね。
私:要はギア方言。
君:そういう展開になれば、俄然、学術的じゃない。ほほほ
私:ははは、その通り。だから民間語源なんて言わせない。日葡辞書にも記載がある。 Yerami 選み。
君:では、おしまい。
私:待ってくれ。始まったばかりだ。
君:例えば。
私:古くからの子供のお遊び、古語だよ。ビードロ、ギヤマンだと思うかい?
君:おっしゃる通りよね。小さなもので子供が容易に手に入れられるもの。小石や貝かしら。
私:いい感しているね。「いらみ」は小石や貝だ。特に貝に関しては「きさご細螺」
君:螺は螺鈿(らでん)よね。きれいだわ。そりゃ子供達もワクワクするわね。
私:そう。そして上記の全国の音韻で古語辞典の語彙につながるのが「えらみ」という訳だ。
君:へえ、その事を発見するのに一分とかからなかったのね。
私:最近は辞書を引くのがめっぽう速くなって。
君:習うより慣れよ。
私:そう。ワンパターンでやっている。本命は方言辞典。次いで古語辞典、日葡辞書、語源辞典。
君:そして新歴史的仮名遣い辞典や日本語逆引き辞典、アクセント辞典が加わるのよね。
私:その通り。僕の頭から出で来た発想なんて一つも無い。要は、この語源コーナーは特にそうだが、辞書の内容を紹介しているだけだ。
君:華麗なる古語の旅。日本語の歴史。
私:そういう事。楽しくて仕方ないね。楽しいから続けている。それだけだ。
君:ほほほ、「えらむ選」(他マ四)の連用形だけで話が終わっちゃダメなのよね。
私:ああ、勿論、「えらみ」のルーツは「えらぶ選」(他バ四)の連用形「えらび」。
君:でも「えらび」は「おはじき」の方言には一切でてこないわね。不思議ね。
私:同感だ。ものの見事にマ行動詞「えらむ」から発生した言葉だね。
君:「えらぶ選」が「えらむ選」より古い言葉なのよね。
私:だろうね。バ行動詞連用形は必ず撥音便になる。このあたりからだろう。
君:「えらむ」に「こ」をつけるところがまた何とも可愛らしいわ。
私:方言接辞ってのだよね。東北に多い。「どじょっこ・ふなっこ」
君:これでなんとか方言学になったわね。
私:そうだね。
君:飛騨では流石に「きさご細螺」は関係ないわね。
私:そうだね。山国で海が無いからね。「きさご」は「きしゃご」に音韻変化している地方が多いようだ。「きさごはじき」という遊戯だそうだが。
君:飛騨では「いらみはじき」とは言わないわね。
私:その通り。「いらみ」と言えば「はじく遊び」の意味でもあるし「おはじき」そのものの意味と言ってもよいだろう。
君:男の子はよく「メンコ」で遊ぶのよね。飛騨方言では「メンコ」は「ケン」。
私:そう。女子は「いらみ」。男子は「けん」。
君:ところがあなたは・・・。
私:そう。数歳ほど年上の近所のお姉ちゃんと「いらみ」で遊んだ。
君:野菊の墓ね。甘酸っぱい思い出があるのよね。多分。

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