大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム

いぞく

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私:そもそも「いぞく」とは飛騨方言サイトにとっては横綱級の言葉だね。
君:今、ネットを調べてみてもあなたが書いた情報しか出てこないじゃないの。それに聞いた事もないし。死語なのよね。
私:まあ死語に近いだろう。でも。僕にとっては懐かしい言葉で、子供の頃は話していた。勿論、村の人々も皆が話していた。飛騨地方でしか話されない言葉だろうね。つまりは飛騨の俚言。日本方言大辞典、ざっと十万の語彙の中に飛騨の言葉として記載がある。土田吉左衛門・飛騨のことば、と荒垣秀雄・北飛騨の方言、両著には共に「いぞこ」「いぞく」の記述がある。ルーラル電子図書館には高山市国府町の郷土料理としていぞくもちの記述がある。
君:意味は?
私:ご飯のおこげだよ。
君:ここは語源のサイトだから「いぞく」の語源を考えようという事なのね。俚言という事は古語辞典には記載がないのよね。古語辞典にある言葉なら必ず全国各地の方言になっているはず、というのは基本中の基本なんでしょ。
私:その通り。方言のほとんどはルーツが古語辞典にあるから、語源の探究も簡単だが、俚言となるとそうもいかない。
君:でもご飯のおこげだから「いひ」+「ぞく・ぞこ」じゃないのかな、位は判るわよ。
私:だよね。つまりは「いひそこ飯底」じゃないのかね。つまりはストレートすぎて、少し、恥ずかしい説だけど。本当はあっと言わせるような語源が思いつけばよかったんだけどね。つまりはお焦げというものは常に釜の底に出来るものだ。しかも毎日。
君:別に異論はないけれど、古語に無いのがなんだか不思議な感じよね。
私:ご飯のおこげの古語ってないのかね?「いひ・」を全て調べたが該当なし。あらゆるキーワードでググっても何も出てこなかった。が副産物があったのがせめてもの救いだった。
君:何か新発見?
私:日本語の語源の書籍も買い集めているがうかつだった。「いびつ」の語源は「いひ」+「ひつ櫃」、つまりは楕円形のおひつから来ていたのだね。「いぼ疣」は「いひ」+「ほほ頬」、つまりは頬にご飯粒のようにくっついたものが「いぼ疣」、実は五分前まで知らなかった。
君:語源は慎重に考えないと、とんでもない間違いを仕出かすわよ。複数説があって、結局のところはよくわからない、という言葉が大半じゃないの。落語にあるでしょ。
私:そうだね。矢が当たってカーンという音がしたからヤカンだろうとか、珍しい鳥が「つうっと」と飛んで「るっ」と止まったから鶴という名前の鳥だとか。美人の千早ちゃんにふられた関取・竜田川の話とか、ちはやぶる神代もきかず竜田川からくれなゐに水くくるとは、のパロディ落語だが。私の趣味はむしろ、こっちだな。青春ラブコメ。

君:あら、落語が好きなの?青春ラブコメも?
私:家内が落語を好きなんだ。古典も新作も調べてはチケットを買ってくる。僕は同伴するだけ。
君:波風なくて良い奥様ね。大切になさいませ。ところで「いぞく」のアクセントは?
私:3モーラで尾高○●●だ。「いひ」は頭高●○だろうね、「そこ底」は共通語で尾高○●、たすと「いひそこ(ひ)」は4(5)モーラ尾高○●●●(●)になるからアクセント学的にも「米びつの底」という言葉でピタリとあっている。国府町の「いぞくもち」だが、飛騨方言のアクセントとしては「も」にアクセントの滝がある5モーラ中高アクセント○●●●○としか考えられないね。舌がかってにそう動く。
君:「いぞくもち」も美味しそうね。
私:実は・・少し違和感がある。
君:?
私:実は、・・本来は食べるべきものじゃないんだ。
君:ご飯のおこげ、と言う説明が舌足らずという事ね。
私:すまない。そういう事になる。「いぞく」の本来の意味は焚いた釜の底にこびりついていて中々、簡単には剥がせないお焦げの事だね。釜を池の畔に持っていき。たわしでゴシゴシこすって出来たものが「いぞこ」、それをポイっと鯉にくれてやるんだよ。主婦の朝の仕事だね。だから、そのようなもので餅を作るのは不可能、つまりは国府町の「いぞくもち」は「いぞく」という言葉が独り歩きしてしまい、焦げ飯という意味で使われている、というのが恐らくは真相だろう。焦げた餅なら当然ながら岐阜県全体や木曽地方、愛知の山奥では「ごへい餅」というものがあるが、「ごへい餅」の美味しさはなんといってもホンノリ焦げ味だからね。「いぞくもち」という言葉は日本方言大辞典に無いのは勿論、土田吉左衛門・飛騨のことば、と荒垣秀雄・北飛騨の方言、両著にも記載が無い。つまりは平成あたりの新しい言葉の可能性がある。勿論、古くから国府町に伝わる料理の可能性もあるでしょう。
君:ふふふ、国府町に何人も友達がいらっしゃるでしょ。
私:おう、そうだった。斐太高校の同級生だ。七人くらいは直ぐに思い出せる。というか、僕の頭には同級生全員の出身中学が入力されているんだ。
君:そのあたりを少し丁寧にご説明なさったほうがいいわよ。
私:斐高は飛騨の中心・高山市に位置し、飛騨一円の中学から進学するので同窓会ともなると飛騨のほとんどの郡・町・村の出身者が出席するので、自分の村・自分の出身中学の学区以外でどんな言葉が話されているか、聞き出すのに苦労が要らない。
君:大学はどうなの。
私:全国区だね。でも半数が愛知県出身と言ってもいいだろう。然も旭丘と東海でその半数。岐阜・三重は少数派。今日はとりとめのない話だな。
君:ところで「いひかひ飯匙」が気になるのだけど。
私:おっと、そう来たか。じゃあ早速調べよう。ふーむ、全国の方言になってるね。「いーげー」「いーぎゃ」「いぎゃ」「めしがい」「みしげ」「みしへ」などに変化している。これが面白い事に九州に集中、本州・四国には「いひかひ飯匙」の方言は一つも無い。???なんだこれは?
君:ほらね、今日も方言の神様にお逢い出来たでしょ。
私:いやあ、素晴らしい発見だ。多分、誰も知らないぞ。やっほう
君:いで/あ/が/きみ/あな/おさなや幼/いひかひ/の/はうげん/しりて/いふかひ言甲斐/なう無/ものし物/たまふ給/かな。

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