大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム

いずま(あぐら)

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私:正直にお書きすると、見直しを怠りひたすら書いているので、当サイトを開始した初期の頃の原稿に誤謬が無いか心配しているんだよ。
君:ほほほ、見直し作業を開始したのね。それは是非とも行うべきだわ。
私:文体の統一もそうだね。
君:対象者を絞る事も。
私:その通り。2004当初は方言サイトが百花繚乱で、小中学生の運営するサイトも多くあったと思う。だから僕も彼らにあわせて書いた。
君:それが今は専ら、一般人向けね。書籍も増えたし。前置きはさておき、今日は飛騨方言名詞「いずま(あぐら)」ね。
私:ああ、語源は簡単だ。多くの古語辞典に記載がある。「ゐずまひ・居住まひ」。
君:意味は「座り方」。例文は枕草子。
私:それはそうなんだが、岩波古語の健闘ぶりが際立つね。
君:ほほほ、記述が多いのね。
私:他社の古語辞典は記載がほとんど同じ。例文すら。「おとりたる/ひと/の/ゐずまひ/も/かしこまる/けしき/にて」
君:「身分の低いおかたが座り方もきちんとしたご様子で」。
私:碁を打つ場面だが、きちんと背筋を伸ばして、胡坐をくんで、という意味だよね。
君:そう。
私:だから、飛騨方言では「ゐずまひ」が「あぐら」の意味になってしまったようだが。
君:ところで、岩波古語は。
私:別の意味をもう一つ紹介。「様子・有様」。例文は「敵(かたき)のゐずまひ見澄まして」(伽・高野物語)、敵陣の様子を見届けて。
君:「座る」の意味では無い、という事よね。
私:本屋さんで売られている古語辞典。購買層は高校生だろう。入試での出題範囲は知れているし、それを解く辞書という事で、語彙も入試用に限られるという事なんだよね。ところが方言研究はそれでは追いつかない。市販の古語辞典の語彙の少なさにこのサイト運営の限界を感じる。ところで中世の名詞「ゐずまひ」と同時代に「あぐら胡床」も既にあるね。要は「いずま・あぐら」の衝突問題という事だが、どうして飛騨方言では「いずま」になったのだろう。
君:「あぐら」のほうがお父さん座りの表現そのものなのよ。語源は「あし足」+「くら鞍・倉」。腰掛椅子の意味もあるわ。
私:そうだね。更には「あぐらゐ」なる名詞もある。記歌謡96。
君:記紀歌謡は古事記と日本書紀の歌謡240の総称。だから「あぐらゐ」は古事記。つまりは「あぐら」のほうが「いずま」より段違いに古い言葉だわ。
私:ふうん。それで少し謎が解けたね。
君:どういう事。
私:東京書籍「語源海」杉本つとむ、に詳しい。「胡床」の漢字を充てるのは中国が外国から導入した事を意味し、それを更に日本に紹介し日本でも用いられる事になった。つまりは太安万侶の業績。和語「あぐら」があったが、足鞍の漢字を充てずに中国語「胡床」を充てた。古事記研究では常識なんだろう。
君:ほほほ、後代には「安愚楽鍋」の当て字もあるわよ。皆が鍋を囲み、ワイワイとやる事。
私:そうだね。「ゐずまひ」も「あぐらゐ」も元来は、キチンと襟を正し、背筋を伸ばして座って威厳を示す姿勢だったんだ。
君:ほほほ、敬意逓減の法則ね。
私:語源海の記載によれば「あぐらをかく」という言い方は江戸時代になってからで、楽に座れる姿勢を示すようになったとの事。
君:つまりは「いずまをかく」も江戸時代からの言い回しかしら。
私:そのへんなんだよね。飛騨方言では必ず「かく」の動詞を用いる。他所でもおおかたそうなんだろう。
君:ほほほ、その漢字は。
私:そうなんだよ。いやあ、びっくりだね。「かく」についてもぎっしり書いてある。親父ギャグ。「懸く・構く・掛く」などだね。和語だから古代からあった動詞だが、江戸時代に突然に「あぐら」と「かく」を結び付けてくだけた言い方が発生したのだろうか。
君:杉本先生はそのようにお考えなのね。
私:和語「いずま」は中世から飛騨に存在したのだろう。近世語「あぐらをかく」に影響されて「いずまをかく」と言うようになったのだろうか。
君:それは誰にもわからないわ。
私:いや、ひとつだけ情報がある。「いずまをかく」とも言うし「いずまかす」とも言うんだよ。
君:飛騨には中世に「いずま」があり、当時から動詞形では「いずまかす」と言っていたのでは、という意味ね。
私:方言は話言葉だし、文献も無いからとりとめのない話なんだけどね。
君:「いずま」の音韻変化はないかしら。
私:土田吉左衛門「飛騨のことば」には「いずま」「いずまかく」「いずまかす」「いじま」「いじまかく」がある。変わったところでは「いずくます(小坂町)」。
君:当然ながら「いずま」は全国の方言よね。
私:ああ、勿論。ただし飛騨と出雲、この二か所だけ。他に「いずまい」(三重県一志郡)がある。
君:興味が尽きないわね。「いずま」の音韻は平板よね。
私:そう。そして「かく」は頭高。従って「いずまかく」は中高。アクセントの滝は「か」だ。
君:ほほほ、ならば何か気づかない。
私:えっ、アクセントで??・・ははは、「いずまかす」も中高。アクセントの滝は「か」だ。
君:つまりは「いずまかく」「いずまかす」の両語はアクセントがピタリ同じ。つまりはゆらぎなのよ。
私:なるほどそうか。方言文末詞とか言い出して、語源に迫ろうとすれば滑稽だね。
君:「いずくます」も言いやすくてモーラの倒置が起きてしまったようね。
私:だろうね。この表現は各種方言辞典には見当たらない。
君:ほほほ、そこで出てくるのが斐太高校。小坂出身の同級生がわんさかいらっしゃるでしょう。
私:ああ、勿論。ただ、卒業以来、逢っていないのもいる。
君:名簿があるでしょ。電話してみたら。
私:恥ずかしくて、できるかい、そんな事。
君:第一に、方言なんて、皆さまにとって関係ないわね。ほほほ
私:でもこうやって日本語が深堀り出来て僕は面白くてしかたない。
君:確かにね。古事記の歌謡が出て来た辺りがハイライトね。112首あるのよ。『日本書紀』に128首、足して240。
私:「いずま」には関係なかったけどね。「いずま」は枕草子。
君:清少納言がお好きなのよね。
私:セレブ女だよね。あの人は。つまりは恋人にするにはいい人だが、結婚するなら紫式部か。
君:なんですって。この際だから言わせていただくわ。惚れた女房より惚れられ女房ですって?男性は結婚後にその事に気づくのですって?それって実はあなたが奥様にとって「ダメ亭主」という事よ。つまりは奥様があまりにも可哀想。飛騨出身の男の最大の欠点、それは男女同権の考えの欠如。つまりは夫のあなたは常に主婦の奥様の働きに「あぐらをかきたい」。いつかこうなるかもと心配していたわ。ザ・飛騨弁フォーラム、遂に炎上す。あなたは全世界の女性を敵に回したのよ、

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