大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム

かかりあい(=杜撰、出鱈目)

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私:今夜もビッグニュース、飛騨の俚言を発見。
君:というからには小学館方言大辞典に飛騨からの情報しかなかったのね。
私:うん。
君:そもそもが、全国の皆様の疑問。発見のきっかけは?
私:話題が無い日もある。ただし、毎日のように書き続ける事を辛いと思った事は無い。いつもの手、というか、土田吉左衛門「飛騨のことば」(飛騨方言辞典)を開いたら目に飛び込んできた言葉。
君:共通語とは意味が異なるわね。自ハ四(自動詞ハ行四段)「かかりあふ懸合・掛合」は自ワ五(自動詞ワ行五段)「かかわりあう関合」と同じだから、共通語ではその連用形「かかりあい」は「人間関係」の意味だわよ。
私:飛騨方言では「良好な関係」の意味ではなく、「いい加減な関係」の意味で用いられるので、意味が完全に逆転してしまったように感ずるかい?
君:ええ。
私:実はそうではない。角川古語大辞典のお出ましだ。
君:簡単に説明してね。
私:まずは自ハ四「かかりあふ掛合・懸合」だが、合戦に際して一斉に攻撃をしかける、という意味。太平記26(南北朝)。
君:なるほど、戦を好む人などいないわね。出来れば避けたいと思うのが人情よね。
私:うん。続いては「かかはる関・拘」だが、語義としては「負担を感じるかたちで関係を持つ」。動ラ下二「かかはる」は「こだわる、気にする」の意味。動ラ四「かかはる」は「こだわる、とらわれる、干渉する、制約を受ける、マイナスの影響がある」の意味。「かかはる」の文例は蜻蛉(平安)にあるから「かかはる」から「かかりあふ」が発生した事のようだ。
君:というよりは名詞「かかり掛係」が出来て、「かかりあひ」が発生したんじゃないの?
私:いやいや、角川には名詞「かかり掛係」については19の意味を挙げている。拘泥するのは止そう。
君:19の意味ね。それは話がこんがらがるわね。関わり合わないほうがいいわよ。
私:その事を飛騨方言では「かかりあいにしとけ」と言うんだよ。
君:なるほど。「かかはり・かかり」はあれこれ変化はしてきたけれど、悪い意味という意味では一貫しているわね。
私:うん。ただし、ひとつ気を付けないといけない事がある。悪い事は悪い事ではない。
君:つまりは元々は悪い意味「かかりあい」でも、実はよい意味でも用いられる事もあるのね。
私:そう。つまりは「手を抜いて、リラックスして、拘らずに、マイペースで」の意味に変化している。「まあ、かかりあいにやっておけばええぞ」。
君:ほほほ、「いい加減にやっておく」と言えば、文字通りはいい意味でも、実は「手抜きでおこなう」という悪い意味もあるわね。
私:そうなんだよ。飛騨方言で「あいつの仕事はかかりあいや」と言えば、「不完全で、手を抜いて、本気度が足らないのでお仕事は甚だよくない」と言う意味なんだよ。
君:そうね。「かかりあい」はいい意味でも悪い意味でも使われるわね。
私:もうひとつ。5モーラの単語なので俚言であるにもかかわらず、音韻変化している。「かかりえ」「かかりげ」「かかれ」、これらも当然ながら飛騨俚言。これ等すべてのアクセントは平板。これは東京アクセントの法則に一致する。蛇足ながら、杜撰は中国からの輸入語だが、語源は中国故事に基づいて諸説ある。出鱈目の語源としては落語ヤカンに似たサイコロ説(賭場説)があるが、「いず出」の連用形「で」+助動詞「たり」の未然形「たら」+助動詞「む」の已然形「め」、つまりは「言葉が出たら出たで構わない」の意味が名詞化した、という説が最有力。
君:ほほほ、あなたが表題をわざと代えて私に本当の表題を解かせようという意図が見えてきたわよ。
私:えっ、ばれたか。
君:今日の表題は実は「かかりあい(=いい加減)」。二語共に良い意味のような悪い意味のようなファジーな言葉。ほほほ

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