大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム

かずら(つる科植物)

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私:今日も楽しい語源の時間だ。
妻:どうして、また植物なの?
私:昭和の流行歌「飛騨の吊り橋」をユーチューブで聴いてしまったからだ。
妻:誰の歌?えっ、山口百恵。でも橋と植物を結びつける意味がわからない。
私:生まれも育ちも都会の君には、ね。ヒントは五箇山。なにか橋があっただろ。
妻:五箇山の橋、ああ、思い出したわ。村の奥にあって、かつて庄川にかかっていたという篭の橋ね。昔の人々は厳しい生活だったのよね。ああ、わかった。展示してあった篭だけど、ツルで編んでたわ。だからツル科「かずら」に興味を持って語源を調べたという事なのね。
私:ああ、そうだ。岩波古語はじめ、多くの語源辞典に記載してある。ところで古語辞典では「かづら」だ。
妻:「かずら」じゃないのね。どうして?
私:チコちゃんみたいな言い方するね、君は。答えはね、「かづら」は歴史的仮名遣いで「かずら」は現代仮名遣い。
妻:歴史的仮名遣いに語源のヒントがあるのね。
私:というか、岩波古語に書いてある。かづら【葛】カミ髪ツラ蔓の意。
妻:へーえ、古代は「つる」じゃなくて「つら」だったのね。
私:ああ、そうだ。万葉集では「つら」。後の世に「つる」が現れる。
妻:「カミツラ」が「カツラ」になるのは大いにありうる事だと思うわ。「ミ」というモーラが脱落すればいいだけだから。
私:ははは、当たらずと言えども遠からず。カミツラ>カムヅラ>カンヅラ>カヅラだったらしい。いきなり一モーラが脱落したわけではないらしい。
妻:じわりじわりと変化したのね。
私:ああ、そうだ。ところでウィグのカツラ、これと植物・かずらとの関係はどう思う。
妻:植物のの語源が「髪を吊る」だからまさか、若しかして同じルーツなの?
私:ああ、そうだウィグと植物は同じ時代に出来た日本語といってもいい。共に万葉集にあるのだから。万葉集には髪飾りの意味で「かづら」、ところが源氏物語では既にウイグの意味で「鬘」。
妻:昔から女性は薄毛にお悩みだったのね。
私:いやあ、女性以上に男性の悩みはもっとだった。平安貴族の男性は禿げ頭を隠すために必ず冠をした。ところで清少納言の父・清原元輔だが、『今昔物語集』28巻や『宇治拾遺物語』13巻に、元輔が落馬し、禿頭であったため冠が滑り落ちたさまを見物人が笑うというくだりがある。ピンチをチャンスに、頓智で切り抜けた元輔。古典ファンなら知らぬ人とて無い逸話だろう。
妻:あなた良かったわね。髪の毛だけは多くて。つまり、あなたは人生の勝ち組なのよ。だから負け組の方々に得意げにヘアケアの話は絶対にしないでね。ところで、「かづら」の方言は?
私:持っている資料を全部、調べた。ゼロだったよ。
妻:なるほど、和語だからなのね。

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