大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム

きいない

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私:飛騨方言で「黄色い」を「きいない」と言うんだよ。
妻:なんだか、つまらないお話ね。
私:いや、それが飛騨方言では少し訛りがあります、というような音韻の話じゃないんだ。
妻:どう考えても音韻の問題だわ。要は訛ってるのよ。
私:実は古代に黄は独立した色ではなかった。黄は赤だった。
妻:馬鹿な事、言わないで、痴子ちゃん。ボーッと文章を書かないでね。
私:だって岡本、古語辞典に書いてあるんだもん。
妻:えっ?
私:岩波古語を読むと・・「き・黄」古代の日本人は黄色を独立した色彩としては区別せずに、赤の範囲に含めて把握していた。色名として「黄」が確立するのは平安時代になってから。
妻:へえ、でもよかったわ、平安時代からは黄色があったのね。奈良時代まで黄色が無かったとは知らなかったわ。
私:ははは、それくらいの事で驚いちゃいけないよ。「黄」がつく古語を全部調べたが、
「きくちば・黄朽葉」黄ばんだ朽葉色
「きなるいずみ・黄なる泉」よみ・黄泉
「き黄なる涙」動物が悲しんで流す涙
「きはだ・黄肌」木の名前
「きばみ・黄ばみ」黄色みを帯びる
「きべうし・黄表紙」草双紙の称
程度だ。なにか気づかないかい。
妻:うーん、わからない。
私:「きいろし」とか「きし」という形容詞がないんだよ、古語辞典には。「赤し」「白し」「あを青し」「黒し」の記載は当然ながらある。
妻:へえ、そうなの。「きいろし」とか「きし」とか言っちゃいそう。
私:それは、なんちゃって古文だ。つまりデタラメ。日葡辞書にはもっと面白い事が書いてある。Qi ironi naru, Qijro ni naru Qina iro 黄色になる黄な色、つまりはこうだ、平安時代に赤の下位分類の「き黄」という色の概念が出来たが、平安時代には「き」+「な」+「いろ」と言っていた。ところで「な」の意味は判るかい。
妻:なんなのよ、その質問。
私:ははは、古文の面白みは徹底的に品詞分解する事だろ。さて、斐太高校はS47には私を含め名古屋大学に7名が合格した進学校。熱血先生達のおかげだ。もう情報開示してもいいかな。実は高3で松崎先生に特別に可愛がっていただき、放課後に品詞分解の個人特訓を受けていた。彼は私が努力家である事を見抜いた真の教師。私は彼の期待に応えるべく、品詞分解の鬼になった。私は彼には本当に感謝している。彼の御恩は一生、忘れない。教育者はかくあるべきだ。さて本題、「な」は連体助詞であり、「の」の母音交替形だ。「海原」の事を「う・な・はら」と言うでしょ。
妻:そういえば有ったわね。元は「うみ・な・はら」だったのね。「神名火」「かむ・な・ひ」とか。
私:だから「き・な・いろ」が安土桃山時代に「き・いろ」とも言うようになったんだよ。これが「黄色い」になったのは、つまりは体言から用言が生まれたのは、なんと明治になってからだ。明治時代にやっと形容詞が生まれたという訳だ。つまりは江戸時代 までは「黄な色」という体言で使用されていたのであって「黄色い」という形容詞は存在しなかった。辞書を深読みすると以上の結論になる。
妻:すごーい、随分と熱い議論ね。「あつし」が古語にあるかも教えてよ。ついでだから。
私:ははは、有るにきまってるだろ。どれどれっと・・「暑し・熱し」はい、ありました。
妻:どうにもこうにも色だけが貧弱な表現の古語辞典の世界ね。
私:そこで、やっと本日のテーマだが飛騨方言で「きい・な・い」どうだ、すごいだろ。
妻:恐れ入ました。「きいない」の「な」は連体助詞の母音交替形なのね。訛ってた訳じゃなかったのね。
私:多分ね。江戸時代までは「黄(な)色」の体言のみ。明治時代に東京で「黄色い」と言い始めたが、飛騨では「黄ない」の形容詞となった。東京では連体助詞「な」が脱落して、飛騨では体言「いろ」の第二モーラが脱落した。明治時代に東京でも飛騨でも一モーラ脱落して「い」を足して形容詞になったが脱落した部分が、・・・びみょーうに・・・違っていた。このように考えるとすべて辻褄が合う。勿論、以上の推論についてタップリの自信はあるのだが、悲しいかな文学博士じゃないし、学会活動はしていません。若し間違っていたらごめんね。
妻:私、あなたを信じるわ。世間様がなんとおっしゃろうと私だけはあなたの味方よ。
私:おっ、ありがとう。じゃあ、もうひとつ、愛をこめて君にとっておきの「こと・の・は」をプレゼントしよう。古語辞典に「いはぬいろ」があるんだ。
妻:まさか、もしかして黄色に関係するのね。
私:おっ、鋭い感。「言はぬ色」不言色と書くんだよ。つまりクチナシ。
妻:わかったわ。言葉遊びね。クチナシの実の色、つまりは濃い黄色を「言わぬ色」というのね。
私:その通り。こんな歌がありましたね。

妻:花弁が白いから「白い花」って歌ってるわよ。
私:飛騨方言で吠えて、濃うて黄いない実やになぁ、残念な歌詞やさ。
妻:「濃し黄な色」の実、「言はぬ色」の実なのにね。 Speech is silver. But, silence is gold. 人生を賢く生きるコツ「言わぬが花」ね、ほほほ。

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