大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム

きっぱ(=際、区切り)

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私:いつまで続くのだろう飛騨方言千一夜、今夜の話題は、きっぱ。アクセントは尾高。意味は、何かの際・何かの頃・間際・切り・区切り。
君:語源については書くまでも無いわね。古語の一般名詞「きは際」。
私:源氏物語の冒頭を知らない高校生はいないだろう。皆が習った「いとやむごとなききは」。
君:でもこの文の意味は「身分」だわよ。
私:そうだね。今、慌てて角川古語大辞典にあたってみたら「きは際」にはなんと十通りの意味があった。それでも飛騨方言「きっば」の語源を「きは際」と書くだけでは部分点じゃないかな。
君:おっとそうきたわね。素人さんが国語教師をなめてくださっては困るわ。「きっぱ」の語源は実は「き」+「は」。「き」は刻み目の意味、「は端」は文字通り「はし端」の意味だけれど、「はし端」は更に意味が多岐になるわよ。
私:そうか。・・角川古語大辞典では「は端」は、はし・半端な事、の二つの意味。ところが「はし端」はなんと14の意味か。凄いね。「はし端」は最重要単語のひとつというわけだ。
君:そうよ。「きは」の語源はつまりは、刻み目の端、という事になるわね。
私:なるほど、「いとやむごとなききは」とは身分というよりは階級という意味であったか。
君:脱線しそうだから飛騨方言の話に戻しましょう。中央では「きは」から「きわ」でハ行転呼、その一方、飛騨方言では促音便というわけね。意味の変遷はどうかしら。
私:文例がいいね。飛騨方言では時間の区切りという意味で専ら用いられるようだ。「田植えの忙しいきっぱに結婚式」とか「ものはきっばに片づけないとだめだ」とか「きっぱきっぱの暮らしに追い立てられる」とか。
君:田植えの忙しい頃によりによって、物事が終わったらその時に直ちに片づけないと、その時その時の暮らし、という意味ね。
私:うん、そんな感じだ。きっぱの片づけ、というとどういう印象を持つ?キチンキチンと節目ごとの片づけをする几帳面な仕事ぶりを想像するか、あるいはなんでもかんでもやっつけ仕事でとりあえず終わらせておくというような仕事ぶりなのか。
君:多分、前者の意味ね。
私:うん、僕もそう思うが後者の意味でもいいような気がする。きっぱきっぱの暮らしというのは、まあ世の中はなんとかなるものだ、というようなニュアンスだと思うんだけどね。
君:飛騨方言は飛騨方言、あまり参考にならないかもしれないけれど「きわ」は全国共通方言なんでしょ。
私:おっと、そうこなくっちゃ。飛騨方言の「きっぱ」は俚言に近いね。「きわ」は全国共通方言であり、意味は矢張り多岐だ。支払勘定時、節季、みそか、間際、当座、臨終、山のふもと、波打ち際、等々。「きっぱ」の記載もあった。
君:ほほほ、面白いわね。全て境界を意味する言葉だわね。
私:そうなんだよ。即物的な言葉ではなく、ポーターを意味する抽象語。だから中央でも、また各地の方言としても意味は多岐だ。ただし飛騨方言では時間を区切る概念に限られるし、しかも促音便で俚言であるという事は方言的価値は高い。
君:飛騨方言の雰囲気が満点の言葉と言う意味ね。
私:今日のきっばがみつからん。困っとるんやさ。
君:・・(ここまで長く書いてきてしまって時間が過ぎてしまったが)今日の区切りをどうしようか考えあぐねている。つまりはオチを何にするのか悩んでいる、という事ね。
私:今まではきっぱきっぱにオチを書いできたんやけど。
君:・・今まではその都度という事でなんとかオチを書いてきたのだけれど。
私:これでやっときっぱの文章や。
君:・・これでなんとか区切りの、つまりは、締めくくりのオチらしい文章になった。ほほほ

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