大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム

着る(布団を)

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私:ほぼ毎日と申しますか、土田吉左衛門著「飛騨のことば」を読んで飛騨方言を発掘しています。
君:何語ほどありますか。
私:698頁にぎっしり書かれていますから、一ページに十個としても七千個、つまりは一万以上の語彙である事は間違いないでしょう。これ以上の飛騨方言資料はありません。
君:お知合いですか?
私:明治40年(1907年)のお生まれで、旧高山市のご出身、2005年に当サイトを開設するやこの書の存在に気づき、ご自宅へ電話してみましたが既にお亡くなりでした。昭和34年(1959年)初版で52歳の著作、当時は吉城高校の国語の先生です。私が唯一の愛読者かも知れません。
君:斐高の名簿にはありませんか。
私:四校・東大の垣内松三先生と違い、各種試験の苦学徒、岐阜師範(岐大の前身)のご卒業です。
君:方言教育をなさったのかしら。
私:謎ですね。今日のお話は土田先生へのご報告です。
君:つまりは表題の通り、土田辞書には「着る(布団を)」の記載が無かったのね。ほほほ
私:その通りです。今日、たまたまネット検索をして気づいたのですが、生活語彙・民俗語彙として「着る」は方言学上、議論に値しますね。
君:布団をかける・かぶる、が共通語だからという事ね。
私:ええ、実は最近、古書ですが、平成4年初版・現代日本語方言大辞典全八巻も手に入れました。この本の凄いところは各語彙について全国で話す・話さないを記載し、しかも話される地方のアクセント表記までしてある、という事です。
君:滅びゆく方言のアクセント表記とは素敵ね。八丈方言、琉球方言も網羅しているのですか。
私:勿論ですとも。ははは
君:あなたのご見解では、飛騨では布団は「着る」のかしら。
私:大西村に限ってはイエス。つまりは天下の土田先生の見落としじゃないでしょうかね。富山大の故・都竹教授はじめ方言学の諸先生が故人なのが残念、お会いしてお聞き出来ません。「布団を着る」の表現ですが、全国的には話される地方はバラバラですが、西日本に多い傾向です、東京では「着る」とは言いません。
君:ではそろそろ古語のお話を。
私:ははは、待ってたぞ、その言葉。
君:昔は布団は着ていたのよね。
私:ははは、からかわないでくださいよ。その手のひっかけ問題を間違えるような僕じゃないよ。答えは「よぎ夜着を着る」ですよね。
君:あら御免なさい。ひっかけとか、そう意味じゃなくて。
私:こちらこそ邪推でごめんなさい。さて古語で布団の事を「よぎ夜着」、「ふすま衾・被」とも言うのですね。つまりはペラペラな布、だから昔の人は布団は「着る(カ上一)」と言っていたのですね。
君:ええ。
私:ところで「よぎ夜着」って方言にありましたよ。
君:えっ、どこ?
私:島根県出雲と隠岐の島だけ。こちらは日本方言大辞典全三巻・小学館。
君:へえ、ところで若しかして日葡辞書にも「よぎ夜着」はあるかしら。
私:ははは、待ってたぞ、その質問も。こちらも大発見がありました。
君:とは?
私:Yogui o Caburi,u Cabuxe,suru。
君:「夜着をかぶり(かぶる)・かぶせ(る)」ね。「よぎ夜着」が「着る(カ上一)」と離婚して、「かぶり被(四段)」「かがふり被(四段)」「かうぶり冠(四段)」と再婚したのだわ。
私:ちょっと待ってくれ。それでは「着る(カ上一)」があまりにも可哀相だろ。
君:なにいってんのよ。あなたこそ「夜着」と離婚して「布団」と再婚したのでしょ。お互いさまよ。
私:うーん、そういう事か。
君:しかも「布団」に目がくらんでしまったのよ。
私:ちょっと待って。どういう意味だい?
君:古語辞典をごらんなさいな。
私:はいはい・・・あっ、そうか。「ふとん蒲団」これってフカフカの座布団の事ね。むむっ、「しとね」の事、これって何だ??
君:平安の敷布団ね。
私:「しきね」じゃないんだ。語源ってなんだろ?「ね」は「寝」だよね。
君:おバカさんね。高校古文をやり直しなさいまし。つまり「寝」は「いぬ寝(自ナ下二)」あるいは「い寝(名詞)」。
私:おっ、思い出したぞ。「いめ夢」の語源は「い寝」+「め目」だったな。昔、子供の頃、ナゾナゾやったよね、寝てても目に入ってくるものなあんだ?、とか。
君:そうね、懐かしいわね。
私:方言のついでに「しとね」って飛騨方言、ってか中部地方の方言だぜ。
君:あらそう。別の意味なのね。
私:感がいいね。「生みの親よりしとね親」。「しとねる(四段)」は「育てる」だ。元々は・・。
君:ほほほ、わかるわよ。「ひとなる人成る(自ラ四)」が他動詞化して「ひとねる」になったのでしょ?
私:まさにその通り。意味は「氏より育ち」だね。教育の大切さという事だよね。俺んちの氏、ひでえからなあ、恥ずかしくて人に言えなくて。マジでホント「氏より育ち」の言葉には癒されるよ。
君:方言をだしに、あなた、遊びすぎよ。
私:お言葉ですね。学問のつもりだけどなぁ。日本語の歴史、それに飛騨の民俗学さ。
君:今度、行きたいわね、飛騨民俗村。
私:ああ、そうだね。昔の人は夜着を着るだけじゃ寒かっただろうなぁ。
君:歎きつつひとり寝(ぬ)る夜の明くる間は いかに久しきものとかは知る。
私:長き夜の 遠の睡ねむりの 皆目醒めざめ 波乗り船の 音の良きかな。
君:回文ね。上から読んでも下から読んでも山本山。 Your name !
私:ねえねえネネちゃん、寝な、ねんねこよ。
君:お孫さんのお名前、ネネちゃん?川柳の同字折句ね。ほほほ

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