大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム

仲間(共同、共有)

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私:今日の話題は飛騨方言「なかま」だ。
君:ほほほ、遊びの輪に入れてもらう時に「仲間して!」というわね。
私:そうだ。共通語では「仲間に入れてください」とは言うが「仲間してください」とは言わない。
君:飛騨方言には「なかま仲間する」というサ変動詞があるのよね。
私:「なかませる」と言うと、より飛騨方言らしいね。尤も、今じゃほとんど使われないだろう。
君:「せる」の活用はどうなるのかしら。
私:せ・せ・せる・せる・せれ・せよ。だからサ変というより下一活用だね。否定の「ない・ぬ」に関しては飛騨方言は必ず「ぬ」、つまりは関西系だから、「する・しない」は飛騨方言では「せる・せん(せぬ)」になる。
君:ところでここは語源のコーナーだわよ。
私:そうだね。岩波古語には「なかま仲間」の記載がある。近世語だ。
君:岩波。なるほどね。意味としては、二人以上の者が一つの物を共用する事。用例は江戸時代に集中しているわ。
私:派生語としては「なかまごと仲間事」の記載もあるでしょ。仲間同士の仕事。幕府法では当事者間で利益配分は解決すべきとして、訴訟しても受理されなかった。
君:江戸時代ですら既に訴訟社会だったのよね。今に始まった事じゃないのよね。
私:当事者同士で仲良く、喧嘩せずにやってください、幕府は関与しませんよ、という事か。
君:飛騨方言では、そのようなギスギスとした意味は一切、ないわね。
私:正にその通り。飛騨方言では「仲間事」じゃなくて「仲間仕事」というね。また、農作業においては「ゆい結」という。
君:複数名がワイワイと楽しくひとつの作業をする事を意味するのよね。
私:最近ではこのサイトもすっかりスタイル的には君と僕の仲間仕事になってきた。
君:あらいやだ。貴方と私は他人よ。
私:いやなら、それはそれでいいんだ。明日からは家内と仲間仕事だ。ところで方言とは話言葉だから、どうもこの対話形式というのが、なんだか書きやすいんだよ。
君:国文法、文語文法、言語学、古語の話でデッドヒートしそうになると、つい私との仲間仕事になるのね。ほほほ
私:その通り。
君:今日はまだデッドヒートしていないわよ。
私:それじゃ。小学館・日本語源大辞典の内容を紹介しよう。
君:ほほほ、お好きなように。
私:キーワードは「組」。そもそもが、時は室町から江戸時代にかけて、社会結合単位としての「組」組織が確立された事。
君:集団よね。でも、鋳物師とか、その昔からあった事じゃないかしら。
私:その通り。大陸から集団で渡ってきたり。でも日本史の話はさておいて、国文学で行こう。岩波古語に「くみぢう組中」という名詞がある。
君:なるほど、江戸時代。
私:すなわち、相互扶助的な共同生活を営む「組」に属する事によって仲間意識が芽生えるようになったので「なかま」という言葉が江戸時代に誕生した。
君:江戸時代に組で仲間が誕生したのね。
私:そう。ちなみに日葡辞書に「なかま」の記載は無い。
君:その一方、江戸時代には「仲間」から次々と新語が生まれるのよね。
私:ははは、その通り。とてもいい感をしている。これこそ君と僕の仲間仕事だ。即ち、「仲間あきなひ」「仲間買ひ」「仲間法度」等々。
君:高校生向け古語辞典には何の記載もないわね。ほほほ
私:受験塾じゃあるまいし。方言だけの話にしよう。
君:レストランでお食事の場合、夫婦だと仲間で食べるわね。
私:その通り。飛騨方言でのその心は、二つの別々の食事を注文し、取り分け皿をいただいて半分ずつを交換する。つまりは二人が二種類だが同一内容の食事を共に楽しむ、という意味だ。
君:飛騨方言をご存じない方だと、昨晩は夫婦喧嘩をした二人が仲直りして食事をする、というような意味に解釈なさるわね。
私:その通り。飛騨方言では「なかま」の食事とは食材をシェアする行為を意味する。その為には取り分け皿が必要。TPOをシェアするという意味ではない。
君:今日は小学館の語源辞典だけね。
私:ははは、江戸語と言えば、大切な辞書を忘れていないかい。
君:ほほほ、あなたがお持ちなのは今のところたった一冊、言海よ。
私:その通り、明治中期の出版だが、江戸後期の言葉といっても良い。きちんと記載がある。
君:共同作業と書いてあるのでしょ。ほほほ
私:お察しがいいね。原文そのままだが「なかま仲間。共ニ事ヲ計ルル人々。トモ伴。クミ組。ハンリョ伴侶。」
君:夫婦の事を仲間と呼ぶのは、現代感覚としてはなんだかむしろ他所他所しい感じだわね。
私:「僕たちは仲間というよりは、そもそもが夫婦だよね。離婚だけはいやだ。僕が悪かった。頼む、別れないでくれ。」とかね。誤解のないように、家内と私は相思相愛だ。
君:ほほほ、わかるわよ。江戸時代から明治にかけてはこの世の中で一番に大切な信頼関係という意味で夫婦の事を「仲間」といったようね。素敵な事よね。
私:うん。僕もそう思う。今の時代は「夫婦ばかりで遊んでいないで、たまには仲間と遊ぶ」というような言い方になっているね。残念だ。
君:ほほほ、敬意逓減の法則ね。「仲間」という言葉の価値が下がっているわ。
私:正にその通り。かくして君と僕の仲間仕事は、なかなか終わらない。
君:では、おしまい。今日のオチは敬意逓減の法則・私にとって他人の貴方。
私:おい、ちょっと待ってくれ。情報満載、日本一を目指しているんだ。他人は結構だが、まだまだ紹介すべき事があるだろ。
君:語源辞典に言海、十分だわよ。
私:この情報爆発の時代に、それでいいのかい。
君:ほほほ、ネット検索よね。つまりは全国の情報。
私:「なかまする」をキーワードに検索すると、たったひとつの情報しか得られない。
君:えっ、たったひとつ。どこ?
私:なかまする(富山)
君:JLect。これは海外のサイトね。
私:Definitely. The JLect Dictionary and its subsequent database is maintained by Zachary Read. For any inquiries, questions, comments, thoughts or suggestions, please contact the owner at info@jlect.com.
君:何よ、急に英語で。
私:I do not know his name。But, The God gave me a great hint.Zachary Read. He must be one of these people. Anyway, I will e-mail him at info@jlect.com.
君:どうぞ、お好きなように。
私:日本国民の皆様へ、日本語方言は海外の人々にも興味を持たれている事だけは知って欲しいのです。今や日本語方言研究もグローバルの時代。日本人の学者様方も日本の方言について英語を用いて戦う時代に。人類が話す言葉は全てが The Science of Linguistics. 英語で記載されずんば学問に非ず。いやはや
君:いやだ、このサイトを英語化しないでよ。いつまでも古語辞典の世界でお願いね。
私:ああ、勿論だ。ここはエンタメサイトなんやさ。あんきになさりんさい。君と僕のフォーエバー・飛騨弁フォーラム。

昭和46と言えば高3の年末か。卒業式が間近し。彼女ともお別れか。切ないな。今やお互いに不惑が近いのに未だに同窓会で再会していないんだなぁ。ところでもうひとつ、そんな彼女はおいといて、君と僕の大切な辞典を度忘れしていたよね。
君:ほほほ、小学館・日本方言大辞典ね。
私:そう。
君:ほほほ、全国の方言だから「仲間」という言葉にいろんな意味が加わっているのでしょ。また派生語もあれやこれやと存在するのよね。
私:おっ、正ににその通り。明治時代に至るまで「仲間」は中央では夫婦をも意味していたが、茨城・栃木あたりでは今や「親戚」の意味らしい。「共同・共有」の意味では全国津々浦々の方言になっていて、飛騨方言の記載もあった。派生語としては「なかまこ」「なかまもち持」「なかまもの物」「なかまうみ海」があり、すべて共有財産の意味だ。意外と少ないね。
君:音韻変化はどうなの。
私:ははは、ゼロだったよ。
君:濁音化している地方は無いのね。
私:そうだ。理由は二つ考えられるね。江戸・明治の言葉で極めて歴史が浅い事。明治以降の国語政策で中央語「仲間」が教育の場で浸透した事。以上の理由だろうね。
君:もっと大切な事にお気付きじゃないのね。三モーラ「な・か・ま」は言いやすいのよ。
私:ははは、実はそうだったか。今度、孫に会ったら「な・か・ま」の単語を知っているか聞いてみるよ。
君:ほほほ、ついでだから目的格と与格もお教えになりたいのよね。
私:その通り。積み木で遊ぶ孫に向かって「じいちゃん」「を」「なかま」「に」「いれてちょうだい」。
君:ほほほ、どこのご家庭も同じね。私も孫が可愛くてたまらないわ。
私:夫婦は子供の教育の義務があるが、孫の教育の義務はないからね。遊んでやるだけだ。
君:その通りよね。じいちゃん・ばあちゃんと孫達が積み木で「なかまする」。

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