大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム |
つくばる(=すわる) |
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私:共通語「すわる」は飛騨方言で「つくばる」だが、まずは国研の言語地図・「すわる」をご覧あれ。 君:飛騨は薄黄緑で少し見にくいわね。CUKUBARU と記載されているわよ。 私:その通り。いやあ、びっくりしたのなんの、数分だが悩んでしまった。ヘボン式の表記という事になれば、くくばる、でしょ。でも表記が CU vs KU だから前者が「ツ」で、後者が「ク」なんだろうね。大慌てで、小学館日本方言大辞典にもあたってみた。辞典には下巻1515頁に「すわる」の言語地図が掲載されている。こちらは「ツクバル」とカタカナ表記だった。ネット情報も辞典も国研編「日本言語地図」全六巻(1966-74)を基にしている。 君:つまりは佐七の今後の課題はアルファベット表記の勉強という事ね。 私:ああ、そのようだね。急ぎ、手元の音韻学の成書に当たってみたが、どこにもそんな事は書かれていない。国研の地図コーナーのトップ頁はここ。CU が「ツ」なら CA は「チャ」なのか??心ぽっきりです。若しや誤植なら妙に納得。 君:人生は言わぬが花よ。 私:そうだね。怖くて、とても質問する気持ちになれない。 君:いいから語源の話題にしましょうよ。 私:そうだね。そのほうが気が紛れる。語源は自ハ四(自動詞ハ行四段)「つくばふ蹲踞」で決まりだね。 君:つまりは平安にハ行転呼で「つくばう」、そして現代の飛騨方言で「つくばる」と言うことね。 私:つまりは活用語尾が更にラ行転呼だな。がはは 君:からかわないで。ラ行転呼などという言葉は無いわよ。 私:あるわけないだろ。たった今、僕が考えたんだ。もうひとつ、この動詞で笑っちゃうのは、自動詞から自動詞への音韻変化なのに「る」になっているって事だな。 君:それはそうね。自動詞が他動詞を派生させる時は「す」をつける。例えば「荒る・荒らす、明く・明かす」。そして他動詞が自動詞を派生する時は「る」をつける。例えば「上ぐ・上がる」「曲ぐ・曲がる」。 私:若しかして「つくばふ」って他動詞なのかい? 君:いやあ、さすがにそれは無いわよ。 私:そうかな。「つくはふ」はそもそもが複合動詞だよね。つまり「つく突付」+「はふ」。しかも「はふ」には自ハ四と他ハ下二があるぜ。 君:他ハ下二「はふ」は「述べ広げる、張り渡す、思いを届かせる、心をやる」という意味だから「すわる」という意味の自動詞じゃないわよ。万葉3067 谷狭(せば)み峰辺(みねへ)に延(は)へる玉葛(たまかずら)延へてしあらば年に来(こ)ずとも (毎年、せっせと私のところへ来てくださって本当に有難う、でも)谷が狭くて伸び続ける玉葛のように(私を)思い続けられるのなら、(たまの)今年は会いに来なくてもいいわよ。 私:そうか。じゃあ、やはり「つくばふ」は自動詞なんだね。それと、これって複合動詞の連濁。現代語でも「はいつくばう」がある。意外と古語って今でも使われているんだな。面白い記事があったよ。ここ 君:ほほほ、ついでだから「つくばる」に関連した連濁もないかしら。 私:「くたばる」「へたばる」「こわばる」「がんばる」・・。切りがないね。 君:「つくばる」は全国の方言かしら。 私:それは素晴らしい質問だ。話されるのは飛騨と美濃だけ。つまりは飛騨と美濃の共通方言。いうなれば、これぞまことの岐阜県方言。 君:なるほどね。となると美濃から飛騨へ伝搬した言葉かしらね。 私:ああ、大いに可能性あり。 君:岐阜県の近隣は「つくばる」を使わないのね。 私:その通り。愛知・すわる、長野・つくばう、富山・つくばう、石川・つくばう、福井・つくばう。 君:元々は北陸・美濃・飛騨・長野で「つくばふ」だったという意味じゃないの。 私:そうなんだよ。美濃で「つくばる」になり、飛騨へ伝番したのだと思う。若し違っていたらゴメンネ。 君:関西は「すわる」だわね。関西と尾張が「すわる」なのよね。「すわる」こそ他ワ下二「すう据」の自動詞だわよ。「うう植」とはサ行子音の有無だけど同根の動詞「すう据・うう植」。こちらは「つくばふ・つくばる」と違って、他動詞が自動詞を派生する時は「る」をつけるの法則「すう(他)・すわる(自)、うう(他)・うわる(自)」が働いているわね。つまりは、まともなのが畿内と尾張で、へんてこりん「つくばふ(自)・つくばる(自)」なのが岐阜県。ほほほ |
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