大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム

うぐろもち(もぐら)

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私:飛騨方言ではモグラの事をウグロモチという。尤も、死語に近いと思うが。
君:ええ、聞いた事ないわね。
私:モグラの語源を知ってるかい。
君:ほほほ、何よその言い方。ひっかけようというのね。モグラの語源は土に潜る事から来ているのではありませんよ・さあ語源は他にあります・飛騨方言がヒントです、と言っているようもんじゃないの。
私:その通り。国語問題のありがたい所、答えが問題文の中に必ず書かれている。受験の鉄則。
君:要するにモグラの古語はウグロモチの音韻に近い言葉というわけね。
私:その通り。モグラの語源は「潜る」ではない。モグラの古語は「うごろもち」。ただし古語辞典に記載があるのは岩波古語辞典と角川古語大辞典のみ。この語は文献的資料が豊富で、語誌を実証的にたどる事が出来るので、古語辞典ではなく、むしろ語源学辞典などには詳しく書かれている。明治の国語辞典・言海には「ムグラモチ」の記載がある。つまりはこれが明治の標準語。予想できると思うが、実はモグラの方言量は多い。小学館日本方言大辞典では代表「おんごろもち」を索引語としてざっと百通りの方言が記載されている。国研地図でも全国のモグラの言い方分布を知る事が出来て、これはもう、ひと言で表す事は難しい。
君:ほほほ、何を言ってらっしゃるの。一言で表現できるわよ。
私:そうだね。モグラの言い方は全国でバラバラです、という事だね。
君:他にも一言表現があるわよ。一粒一粒違ったごま塩を振ったような日本地図。飛騨方言での言い方も様々ね。
私:そのようだね。土田辞書には上記以外に、オグラ、オゴロモチ、オモラモチ、オモロモチ、オンゴロ、オンゴロモチ、ムクロモチ、ムツクリモチ、の記載がある。つまりは飛騨だけでも方言量はモグラを入れて10。全国の方言となると或る程度はパターン化しているので方言量は10x都道府県数にはならず、これの二割以下で約100。やれやれ
君:そしていつもの論法が始まるのでしょ。
私:その通り。恥ずかしい限りだが、当サイトには同じ事を繰り返し書いている。★方言とはいえ必ず古語に由来する事、★5モーラもある、つまりは長い名詞は方言量が多い事、★子供が接する事が多いものは方言量が多い事。モグラもその典型。
君:でも、そんな平凡な記事ばかりではあっという間に読者の皆様に飽きられてしまうわよ。
私:そういわれると思って、とっておきの情報をお教えしよう。モグラはいつの時代から日本にいたのでしょう。答えは上記の文章に書かれています。
君:ほほほ、簡単すぎる質問ね。モグラの語は文献的資料が豊富で、語誌を実証的にたどる事が出来るそうだから、ズバリ、うごろもちは和語。和語よ。
私:大正解だ。漢語でも外来語でもない。答えは和語。という事は、語源がたちまちに深堀りできる。ヒントは連用形。
君:つまりは、和語に、うごろもつ、という動詞があったという論法ね。
私:正にその通り。ただし天下の角川古語大辞典全五巻をしても、うごろもつ、の記載は無い。それでも語源に迫る事は可能だ。
君:ほほほ、またまた質問の中に答えが書いてあるわよ。それこそ思考回路はショート寸前♪今すぐ会いたいわ♪
私:美少女戦士さん、真面目に答えてください。
君:ええ。古語辞典では、うご、のあたりの語彙に、うごく・うごなはる・うごめく・うごつく・うごもつ、の動詞があり、これ等がすべて和語。つまりはモグラの古語「うごろもち」は、これらの動詞の音韻に酷似しているから、これらの語彙全てが同根「うご」という事なのよね。
私:ははは、やっと君と気が合ったな。おっ、大切な事を思い出した。カタツムリの方言量は多く柳田國男の方言周圏論が有名だが、モグラは当てはまらないね。各地で自然に沢山の語彙が生まれたという事。和語として「うごろもち」なる言葉が中古語として全国的に存在した。それが変化したのだから、周圏論に対し「方言孤立変遷論」という。しかも現代語「もぐら」として全国均一の言葉になった、つまり先祖返りしたという訳だ。本邦初の発信、大西左七の「逆方言孤立変遷論」。がはは
君:なるほどね。
私:更に「うごろもち」は日本語の感性の問題にも触れる事ができるね。どんな意味?
君:感性がヒント、キーワードという訳ね。つまりはオノマトペ。ウゴは擬態語なのよ。
私:その通り。うごうご、という擬態語がある。他にも日本語としては、むごむご、うざうざ、などの擬態語も。要約するとモグラの語源「うごろもち」は「ウゴウゴと動き回って土を持ち上げる」と言う意味の和語。モグラは明治以降の言葉。明治の初期にはムグラモチだったが、その後に短呼化してモグラ。
君:モグラの語源は潜る事からかな、という単純発想を民間語源というのよね。
私:ちはやふる・・・。関取の竜田川関が千早ちゃんにふられて自殺するという落語のレベルだな。これで終わりにしよう。実は古語辞典に「もぐら」の記載がある。
君:ただし、それはモグラの意味ではない。
私:その通り。答えは「むぐら葎」の転。葎は蔓性の雑草の総称。さらにこれはくわ科の「かなむぐら」が語源だそうだ。
君:ほほほ、むくむく、から来ているのね。
私:まあ、そんなところだな。和語だ。今日の結論としては、和語の語源はまずはオノマトペを考えろ。
君:もぐらモグモグ、もっきりぽっきり、たこ入道・・・幼かった子供を夢中で育てていた事が懐かしいわ。クスン

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