大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム |
飛騨紅かぶ |
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私:今日は赤カブのお話で。 君:「飛騨紅かぶ」が正式名称という事なのね。 私:いや、今、JAひだにアクセスしたが、「紅かぶ」が総称で、種類としては 「飛騨紅かぶ」、「飛騨飛女かぶ(根こぶ病抵抗性品種)」(以上、コサカ種苗)、「紅かぶ」(東北種苗)、「種蔵紅かぶ」、「久野川かぶら」(以上、飛騨各地の在来種・伝統野菜)という事だそうだが。岐阜県農政部情報では県の野菜22傑に入っている。 君:でも、漬物の名前は「赤カブ」よね。 私:ああ、そうだ。これもネット情報だが、飛騨高山よしま農園情報などが秀逸。ただし「八賀かぶ」と書かれているのは、正しくは「八賀かぶら蕪」の可能性がある。 君:「かぶ」でも「かぶら」でも、言葉の揺らぎととらえれば、どちらでもいいんじゃないの? 私:ははは、その通りだよね。でも、ここは言葉のお遊びのサイトだから、その辺から議論に入ろう。「かぶ」と「かぶら」ではどちらが古いと思う? 君:同時代の言葉のゆらぎかしら。 私:語源学という学問の立場からは「かぶ」が古くて、後代に「かぶら」が出来たようだね。引き合いに出されるのが「なす」と「なすび」だけど。 君:「なす」は古語よね。「かぶ蕪」も古語「かぶ株」から派生した言葉なのかしら。 私:ズバリと突っ込まれると辛い。わからない。多分、そんなところだろうね。はっきりとしている事と言えば「なす」は女房詞として「おなす」と言われていた。子供が「おなす」と言ってもいいだろうが、男が流石に「おなす」という訳にも行かないので、男が「なす」を「なすび」というようになったようだね。それが後代には「なす」「なすび」の意味の混同が生じ、つまりは同一の概念の同一の用法と言う次第で現代に至るというわけだ。 君:だから「かぶ」の女房詞が「おかぶ」で、そして男が「かぶら」というようになったのね。 私:正にその通り。実は、その事が日葡辞書に書かれている。Cabu カブ(蕪) 夫人語。Caburaカブラ(蕪)。つまりは戦国時代は、女は「かぶ」「かぶら」を使うが、男は「かぶら」しか使わない。それに「かぶら」と言えば。 君:「かぶらや鏑矢」、つまり戦いの道具ね。 私:その通り。形が似ているから鏑矢だ。矢を放つとヒューッと音がする。戦闘開始の合図だ。それに「かぶら」にはもう一つの意味があって「よろひ鎧」のパーツ「えびら箙」の別名でもある。沖には平氏だが陸(くが)には源氏が「えびら箙」を叩いたという平家物語・那須与一の一節は高校生なら誰でも知ってるよね。「えびら箙」は「やなぐひ」とも言う。男の子はこういう語彙に夢中になっちゃうんだよ。 早乙女の君:脱線しすぎだから「赤カブ」に話を戻してたもれ。 私:いやぁ、すまない。いつも引き合いに出す飛騨方言辞典・土田吉左衛門著「飛騨のことば」には「はちがかぶら」の記載はあるが、「赤カブ」の記載は無い。「赤カブ」の発見は1918年(大正7年)、八賀かぶらの突然変異で赤色のかぶが生まれたからだそうだが、当時は名前が無かったという事になるね。戦後の言葉なんだろうね。 君:若しかして・・あなた。 私:そう、1980年スタート、テレビドラマ「赤かぶ検事奮戦記」が名付け親の可能性が無きにしも非ず。ただし原作は和久峻三の赤かぶ検事シリーズでこちらのスタートは1976年だから、「赤カブ」の名付け親は和久峻三の可能性があるし、彼が飛騨方言「赤カブ」を聞いて、これだ、と閃いた可能性もある。弁護士、推理小説作家、写真家、と実にマルチタレントなお方だ。手元の方言資料を全部、調べたが、「赤カブ」「紅カブ」の記載は皆無だったよ。 君:ふふっ、「赤カブ」「赤カブラ」辺りをネット検索したんじゃないの? 私:お察しの通りです。両方とも使われている。これは言葉の揺らぎだね。女房詞は関係ない。 君:「飛騨飛女かぶ」つて「飛騨姫カブ」でもよかったのにね。 私:ははは、残念でした。「ひだとびめかぶ」だよ。 君:あらそうなのね。 私:実は「飛女」は中国語でもある。中国語情報がネットではヒットした。「飛女刑事(スケバン刑事)」。女房詞の日中比較だ。ぶふっ 君:流石にそんな事は誰も知らないわね。 私:室町時代に花咲く女房詞、東北大学附属図書館狩野文庫蔵「女中言葉 全」がバイブルのようだが。 君:それも誰も知らないわよ。 |
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