大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム

かわたろう

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私:今日は伝説の動物「かっぱ河童」について。
君:あら、でも表題は「川太郎」だわよ。
私:然り。その辺りの説明、華麗なる方言語彙の世界のお話から。小学館日本方言大辞典には「かわたろー」の見出しはあるが「かっぱ」は無い。河童は勿論、現代語における共通語だが、実は角川古語大辞典には「かはたらう川太郎」、江戸にては「かっぱ河童」といふ(軽口東方朔・二)の説明があり、つまりは近世まで共通語は「かはたらう」であったようなので、従って方言学の世界に於いては「かわたろー」を見出しに用いているようだ。つまりは「かっぱ」は東京(なんのことはない江戸という田舎)の方言という認識。「かわたろー」の方言量は実に多い。
君:主に子供が使う言葉という事で多いのね。
私:その通り。飛騨方言では「がおろ」が一般的ではないだろうか。かくなる私は「がおろ」という言葉を覚えて育ったので、小学生低学年辺りか、「かっぱ」という言葉を耳にして、はて・何の意味だろう・えっ「がおろ」の事か、と思ったような記憶がある。
君:「がおろ」の由来は「川郎」かしらね。
私:かもね。土田辞書によると飛騨方言での「かわたろー」の方言量は5、がーらんべ、がわらんべ、がうろ、がおろ、がごろ。
君:ほほほ、明らかに二系統ね。河+「わらべ童」と、河+「ろう郎」。
私:その通り。河童の赤ちゃん・子供だから「河童」ではなく、河童は大人も人間の子供程度の小動物と考えられていたからだね。
君:全国の語彙はどうかしら。
私:これもねぇ、ざっと五十以上ほどあるから手ごわいよ。でも系統に細分する事は可能だ。かわたろうの系統、がおろの系統、かわぼうずの系統、かっぱ〜の系統、その他、というところかな。更に問題を複雑にしているのが、「かわたろう」には「河童」以外に、ざっと十幾つ、別の意味の方言もある。かわうそ、かじか、げんごろう、みずすまし、あめんぼ、たがめ、等々、水辺の小動物あれこれ。
君:それって全て子供がかってに名付けた結果なのよね。
私:その通り。大人の世界、つまり角川古語大辞典・つまりは古典文学に出て来るのは「かはたらう」、そして近世の江戸文学に「かっぱ」が出てくる。子供の世界、つまりは方言量の多い日本語の世界は古語辞典には出てこない。古語辞典と方言辞典、両者のルーツは同じだが見ている世界が違うのだ。
君:言いすぎじゃないのかしら。大人の世界、つまり角川古語大辞典とは大きく出たわね。
私:ははは、角川古語大辞典は全五巻だよ。日本の英知、 de fact standard というわけ。だから大人の世界。つまりは「かはたらう」は受験の古語辞典、つまりは小さな古語辞典には出てこない。記載が無いわけでもないが「かはたらう」河童の異名、と一言あるだけだから、それだけの情報では正確な記事は書けないという事。もっともこんなことで驚くな、語源辞典や民俗学辞典ともなると更に別、方言学辞典とは違って、河童にまつわる各地の伝説まで紹介してあるから、こちらが本当の意味で大人の辞典かな。カッパが文献に表れるのは近世以降の事。室町以前に日本に河童はいなかった。全国の河童伝説の幾つかには左甚五郎がまつわるお話が多い。ところが肝心の飛騨地方には左甚五郎にまつわるガオロの民話が無い。河童は人のお尻から内臓を引き抜くらしいんだがね。つまりは殺人鬼、これが子供を震え上がらさせる。ぶふっ
君:左甚五郎は江戸時代の伝説的な彫刻職人ね。クールな私の質問、果たして実在の人物かしら。
私:実在の人だ。1584-1644 播州明石の生まれ、縁あって七歳から飛騨高山、彫刻の腕を磨き25歳で江戸へ、活躍は全国。なにせ講談・浪曲・落語、江戸のあらゆるジャンルの芸術に登場するスーパーヒーロー。飛騨が誇る郷土の英雄。別名が飛弾の甚五郎。竹の水仙、いやあ、こういうのが僕は大好きなんだよ。耳にタコだな。

君:竹の水仙、あなたの故郷・大西村から歩いていける距離の神社・高山市一ノ宮町水無神社の神馬の話といい、スーパーアニミズムの世界、子供のように楽しんでいるのは、・・実は蜩c國男イノチのあなただけ。ほほほ
まとめ・江戸時代までの飛騨方言に「かっぱ」が無かったのは元々が「かはたらう」があったからでしょう。「た」の音韻の脱落と、語頭の濁音化は江戸前期以前に生じていた可能性すらあります。cf. 怪獣の名はなぜガギグゲゴなのか、黒川伊保子、新潮新書、5刷

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