大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム |
こうま(子馬) |
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私:今日は「こうま」の方言語彙を語ろう。 妻:大人の馬じゃなくてポニーちゃんね。「仔馬」の間違いじゃないの? 私:じゃあ、まずは漢字の話から。「仔馬」よりむしろ「子馬」が正しいのじゃないかね。cf. 漢字ペディア「仔」は漢音で「シ」、呉音で「ジ」会意形声文字で、人のあるべき姿を示す漢字で、耐える・やり通すとか非常に細やかな事、の意味だ。しけん「仔肩」は責任、負担の意。しさい「仔細」は詳しい事情とか非常に微妙なので正確に伝えるには数ページ必要、などの意味だ。仔の訓は「こまか」「こ(動物の)子」。仔牛、仔猫、仔犬などは常用されるが。 妻:へえ、そうなの。動物なのに人偏という事自体が不合理だわよね。子馬の語彙って、やはり多いのでしょ?飛騨方言に限るとどんな言葉なの? 私:まあ、死語に近いのだろうが「とうざいま」だ。私が幼い頃、故郷大西村では沢山の馬が飼育されていた。戦前の久々野(故郷)では馬市が開かれていた位だ。木曽馬だよ。 妻:あなた、とんでもない田舎の育ちなのよね。 私:若い頃、そう言えば、君と知り合うまで誰彼にも育ちをひた隠しにしていたな。 妻:騙されたとは言わないけど、ほんと、私、あの時はびっくりしたわよ。ところで「とうざいま」は「とうざい」+「ま」で、「とうざい」って「小さい」という意味で古語辞典にあるんじゃないの? 私:まさにその通り、ほら辞典を見てごらん。 妻:はいはい、・・、あら、ないわよ。 私:ははは、ひっかかったぞ。ごめんね。実は「たうざい」だ。古語辞典を駆使するには歴史的仮名遣いの理解が必要でせう。 妻:なにを「・せう」なんて気取って。私の趣味が草花だから植物語彙なら負けないわよ。ええっと、たうざい当歳、生まれた年、一歳の事、なるほどね。 私:そう、厳密には一歳馬を示すのだろう。ただし子馬の意味で全国の方言になっている。日本方言大辞典によれば、とーざい・とーざいこ・とーざいっこ・とーぜー・とーない・とーねこ・とーねご・とーねっこ・とーねんぼー・とでっこ・とねこ・とんこ・とんこめ、ざっとこんな感じだ。「とうざい」が「とね・」「とん・」に変化したのだろう。何故か、容易に推察出来るだろ? 妻:ええ、勿論、「当年」よね。当歳と書いていたのに画数が多いから当年と書くようになり、「とね・」と言うようになっちゃったのよね。 私:だろうね。ところで馬の事を「こま駒」というでしょ。ついでに古語辞典を読んでみて。 妻:どれどれ。・・あら、やだ、「こま駒」子馬の事って書いてある。 私:ははは、本当に話はつきないね。元々は子馬の意味で「こま」だったが、いつのまにか「うま」と同義語になり、将棋の駒、三味線の駒などの意味が加わるようになったのさ。「こま」系統の子馬を意味する方言も全国に多い。ここまこ・こまこ・ころうま・ころんま、ざっとこんなところだ。しかも「こまこ」は秋田県仙北郡だぜ。秋田じゃ「どじょっこ」「ふなっこ」で、童謡にもなってるね。 ![]() 写真は秋田市立金足西小学校前庭にある歌碑。作曲者岡本敏明直筆の銘が記されている。しみじみ感じるんだが、方言って素朴だね。駒子は実は「こ」+「うま」+「こ」で「こまこ子馬子」だ。秋田の人達はどなたもご存じあるまい。ははは 妻:田舎育ちのあなただからこそ方言好きなのよ。だから方言学の学者様は地方のご出身のお方ばかりなのでしょうね。どうせあなたの事だから、そのあたりはコツコツとお調べ中でしょうけど。 |
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