大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム |
サクラソウ桜草「クルマソー車草」 |
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私:職業柄、毎日、調べ事がある。患者様がお花の手入れでかぶれてしまわれた。 君:何の花? 私:サクラソウ。漆かぶれを知らない人はいないだろうが、お花でも思わず皮膚炎が生ずる事がある。プリムラ皮膚炎 primula dermatitis という。内科の医者が三度の飯より好きなのが化学構造式。原因の物質はプリミン primin C12H16O3 2-methoxy-6-n-pentyl-p-benzoquinone。春を告げる草だが実は多年草。毎年、種を蒔く人もおられようが、秋に根付、根分けなどをするのも方法。 君:私は化学構造式には興味が無いわ。アレルギーになるのよ。 私:えっ?!!!!失礼。いやあ本当に御免ね。では国語学、飛騨方言の話でいこう。サクラソウは飛騨方言では「クルマソー」だ。まん丸い感じから、そう呼ばれるようになったのかもしれないね。 君:ほほほ、それならそれだけの事よ。あまり為になるお話でもなさそうね。 私:うーん、お言葉だな。だが然し、たかが飛騨方言、されど飛騨方言。方言学では植物方言語彙はとても重要なジャンルなんだ。 君:好きな人は好きなのでしょうね。でも周りに方言が好きという人は見当たらないわ。つまりは、あなたって変わり者ね。 私:まあ何とでも言ってくれ。ところで飛騨ではサクラソウの方言量は幾つだと思う? 君:それは簡単な質問ね。答えが表題に書かれているから。飛騨ではサクラソウの事を古い人はクルマソウとおっしゃるのよね。つまりは方言量は2だわ。 私:正解だ。つまり共通語も共通語という方言としてカウントする事とする。では全国のサクラソウの方言量は? 君:ヒントがあってもいいんじゃない。日本古来の花なら方言量は多いし、外来種なら少ないわよね。 私:サクラソウは日本古来の花だ。全国に咲いている。 君:では多分、50ほどの方言量かしら。 私:ははは、たったの11だ。極めて少ない。不思議だと思わないかい。 君:ええ、不思議ね。ははあ、わかった。屁理屈を思いついたというわけね。 私:まあ何とでも言ってくれ。八坂書房・日本植物方言集成によれば、くるまそー、くるまっこ、くるまばな、くるみそー、さくらあさ、しどりげっちょ、なるてんぐさ、なわないそー、めどちばな、めどつばな、やまほーどけ。「くるまそー」は埼玉、長野(北佐久)、飛騨の言葉だ。 君:他の地方では、つまりは全国の大半の地域では「さくらそー」で方言量は1なのね。ほほほ、左七節の始まり、日本古来の花なのに方言量が少ない事に関して、屁理屈を簡単にお披露目してね。 私:では。先ほどネット情報を漁りまくって作ったストーリーだから、若し間違ってたらゴメンネ。桜草は中国大陸はじめ、朝鮮半島にも、日本列島にも咲いていた古い花。とろが冒頭にも述べたように毒性物質プリミンを有する。従って日本では古代から駆除の対象になっていたのだろう。かくして庶民の目に触れない花になってしまったサクラソウよ哀れ。ところが江戸時代の半ばに桜草の一大ブームが起きる。荒川の土手に群生する桜草が見つかり、江戸にもたらされ、これが武士階級の間で人気を呼び園芸文化が起きる。山は富士、サクラソウの名前も当時あたりからだろうな、参勤交代で全国の武士が江戸と地方を行き来するので、桜草の園芸文化が地方の城下に広まり、色も多彩となり、やがては庶民の園芸文化に。つまりは桜草はこうなって来ると江戸時代の外来種も同然。これが方言量が少ない理由。キンモクセイも江戸時代に中国から伝わった。こちらの方言量は1だ。つまり共通語以外の方言は無い。 君:なるほどね。「クルマソー」が埼玉、長野、飛騨というのは偶然という事なのね。 私:その通り。三地域になんら関係はない。ところで北佐久だから小諸藩だね。飛騨は天領で飛州郡代による幕府直轄。という事で江戸時代の武士文化という共通項があると言えなくもないだろう。 君:気になる事があるわ。めどちばな、めどつばな、って同根よね。何処の方言なの。 私:青森県八戸だよ。八戸藩だ。 君:「めだつ目立つ」から来ているのかしらね。 私:おいおい、よしておくれ。「めどち・めどつ」と言えば青森県を代表する方言で河童を意味するんだよ。だから荒川同様に河原に咲いていたからじゃないのかな。つまりは八戸城下から自然に帰って河原に自生し始めて、地元の人々が河童と結びつけたかもしれない。でも武士階級に要求されるのは漢文等の教養、八戸方言の花の名前にはなり得ないだろうね。だから元々の自生の花がそう呼ばれた可能性が高いと考えたい。気分は、なんちゃって柳田國男。 君:でも飛騨でも「車草」の方言になったのでしょ。 私:飛騨の庶民がつけたのか、陣屋のお役人さんの誰かがお付けになったのか、あるいは上三之町の町民の方々か、それは僕にはわからない。気持ち的にはそのまま桜草と呼ぶのは酔狂とは言えないので、元来の「クルマソー」の音韻、つまりは車草(ホトケノザ)に似た花の意味で呼ばれるようになったのかな。色は似ているね。語源は誰にもわからない。これを方言ロマンスと言う。たった今、勝手に思いついた言葉だ。 君:ほほほ、方言ロマンスね。ところで桜草の花言葉は? 私:少年時代、初恋。春のホンの一時期に咲く花だからね。推して知るべし。 君:プリムラの語源は? 私:ラテン語だ。New Latin, from Medieval Latin primula (veris) little first one (of the spring)。正に花言葉そのものだ。primary という英単語は中学生ですら知っている。 君:あら、あなたの初恋は英単語の意味そのもので小学生時代だったのかしら。それとも英語を習い始めた中学時代? 私:勿論、物心ついた時ですよ。よくあるパターンとしては隣の美代ちゃん、ってなところだろうが、全国の皆様へ、僕の初恋は思春期です、と一言だけ打ち明けておきましょう。人間だもの。 君:それは男女、同じよ。多分。 |
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