大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム

桑の実

戻る

私:桑の実は方言量がやや多いほうで数十というところかな。先ほど小学館日本方言辞典で確認。
君:飛騨方言の語彙は幾つなのかしら。
私:生まれ育った久々野町大西村じゃ「クワノミ」だな。若しかして飛騨の他の村では別の言い方があるのかも、と思って、各種の手元資料を調べまくった。それにしても子供の頃、唇を紫にして食べた。山の畑の桑の実を小籠に摘んだはまぼろしか。昔から桑の実は方言の研究者や文学者の興味の対象だった。多くの資料や作品がある。これも、先ほど来、あれこれ調べたが、また別の機会に。今夜の方言千一夜は飛騨方言のお話だけにしよう。
君:結果は。
私:飛騨では「クワイチゴ」「ゴミ」「エチゴ」「ツバミ」「ツナビ」こんなところかな。
君:「ゴミ」は「ぐみ茱萸」の音韻変化よね。
私:ああ、勿論。クワとは別の植物だが、「ぐみ茱萸」も実は食用だ。
君:「エチゴ」は「いちご苺」の音韻変化ね。
私:勿論だ。そして「クワイチゴ」は桑の実を苺に見立てた言葉の遊びという訳だね。方言らしい言い方だと思う。
君:問題は「ツバミ」「ツナビ」、この語源だわ。
私:そうなんだよ。一瞬だが、「ツバミ」は「つば」+「み実」かと考えて、「つば・つな」辺りの古語を片っ端から当たってみたが該当無し。ところが、ふふふ。
君:判ったわ。古語の標準語引き辞典ね。
私:そう。三省堂。芹生公男。1961年広島大学教育学部卒。兵庫県立高等学校の国語科教諭・教頭・校長。2003年〜辞書編纂に専念。日本一の逆引き古語男。高校の先生でいらっしゃったんだね。立派な業績だ。同辞典によると「くわ」の古語は「つみ柘」だ。従って「ツバミ」「ツナビ」の語源は「つみ柘」でしょ。山法師:ミズキ科たのしい万葉集も参考までに。
君:なるほどね。
私:だろ。皆様が国語は大好き、一言で言えば、「上には上がおるんじゃ!」。
君:他人の土俵では駄目よ。自分の土俵でなきゃ。方言よ。
私:そうだね。「ツナビ飛騨」「ツナメ岐阜」「ツバメ富山」「ツマメ金沢市」などは「つみ柘」が語源かなと考えたくなってしまうが、なにせ3モーラ対2モーラだからね。間違っている可能性だってあるだろう。
君:「つみの実」が「つなめ・つまめ」になったのじゃないかしら。つまりはモーラが4から3の短呼化かも。モーラの増加は上位分類つまりは語根「実」に下位分類つまりは接辞「柘の」が接合したからじゃないかしら。
私:おっ、その手があったか。君も長らく僕と話していると、すっかり方言女子になっていらっしゃる。
君:そうかしら。
私:もう一つ、収穫があった。
君:あら、何。
私:友人に柘植というのがいるんだ。気にも留めていなかったが、「つみ柘」+「げ」接尾、という事なんだよね。ツゲはツゲ科の常緑低木でクワとは違うが、つまりは「桑のような」「桑らしく見える」という事かな。おカイコ様の気持ちになって考えると、なんておいしそうな、という意味じゃないのかい。

君:3モーラが2モーラになったのでは、という発想は正に方言男子ね。というか、語源男子ね。ほほほ

ページ先頭に戻る