大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム |
らいちょう雷鳥 |
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私:雷鳥と言えば岐阜県の鳥だが、生息しているのが北アルプス。よくぞまあ美濃地方の人々が妥協してくださったものだね。 君:美濃を代表する鳥と言えば鵜かしら。長良川と木曽川の鵜飼いに加えて鵜沼市がある位だから。 私:鵜では無くて雷鳥が県の鳥に指定された理由は、鵜飼なら全国で行われるが雷鳥は岐阜県にしかいない、という事だからかな。厳密には長野県、富山県にまたがる北アルプスの鳥だけど。この鳥の方言量が1でないという事を知ったのはつい先程。 君:方言量は? 私:6だ。極めて少ない。小学館日本方言大辞典によれば、おなりどり御鳴鳥(新潟県北魚沼郡)、かんこどり閑古鳥(富山県砺波)、だけがらす岳烏(飛騨)、たけどり岳鳥(長野県北安曇郡)、だけどり岳鳥(飛騨)、らいのとり(共通語、古語)。だから共通語「(にほん)らいちょう」も入れると7かな。 君:生息域が狭いから方言量は少ないのね。 私:その通り。より厳密には、人のいないところに生息しているから、というのが正解だろう。乗鞍は何度か登山しているが、実際に見た事は無い。 君:かつては富山県砺波や新潟県にも生息していたという事かしら。 私:言うまでも無いが、砺波に関しては白山国立公園のからみだね。ただしネット情報では生息域は中部山岳の高山(妙高山塊、飛騨山脈、乗鞍山塊、御岳山塊、赤石山脈など)。という事で、新潟の「おなりどり」に関しては上信越国立公園からみという事で中部山岳国立公園とはかけ離れている。温暖化に伴い、上信越からは雷鳥は姿を消した。方言だけが残ったという事のようだが。生息域が白山との記載が無いので砺波の「かんこどり」も死語になったのだろう。 君:なるほど。地球温暖化ね。 私:私が子供の頃、昭和30年代、飛騨はうんざりするほど雪が降った。最近は暖冬でスキー場の経営がままならぬような状態だ。 君:飛騨としては方言量は3ね。 私:その通り。だけがらす、だけどり、らいちょう。共通語「らいのとり」がある事はつい先程知った。「らいのとり」はなんと、角川古語大辞典全五巻にすら記載されていないが実は激レアの古語。後鳥羽院の和歌には「白山の松の木陰にかくろへて静かに住めるらいのとり雷鳥かな」がある。かつては白山に雷鳥が住んでいた動かぬ証拠というわけだ。また後鳥羽院の和歌を家に張り付けると雷を静めるという民間信仰がある。私は一貫して方言学と民俗学は不可分の立場をとっている。 君:ほほほ、貴方が「らいのとり」に続いて次に何を調べ始めたか、わかるわよ。つまりは「だけ」。 私:その通り。これも死語には近いだろうが、飛騨方言で「だけ岳」は飛騨山脈の事を示す。笠岳、穂高連峰、乗鞍、御岳。古語辞典にあるのは「たけ嶽」。意味は高く険しい山。出典は記・上、万葉873、八雲3。八雲は八雲御抄。鎌倉時代の最大の歌学書。素朴な疑問だが、飛騨方言ではいつの時代に濁音化したのだろう。里を代表する鳥「からす」も和語で、万葉集には鳴き声が「ころく」と記載されている。「からす」はどうも鳴き声「ころく」から来たらしいが、万葉集には「おほをそどり」の名でも出ている。 君:飛騨の人々、例えば上宝村の里の人々も雷鳥はご覧になった事がないので「だけがらす、だけどり」とお呼びになったのね。素朴さ、純朴さを感じるわ。ほほほ 私:雷鳥はキジ科で、氷河期に大陸と日本が繋がっていた時に生息の南限たる日本に住んでいたものの、やがて氷河期が終わると生息域は大陸と分断され、しかもどんどんと温暖化が進んで飛騨山脈に追いやられたという日本古来の宿業の鳥だそうだ。つまりは岐阜県の鳥という以前、つまりは日本を代表する固有種。絶滅危惧 II 類 (VU)に指定され、保護されている。 君:雷鳥の語源はなにかしらね。 私:ははは、待っていたぞ。その言葉。東京堂出版・語源辞典動物編に詳しい。前述の如く、平安時代から「ライノトリ」として知られていた(夫木和歌抄)。「ライチョウ」が出てくるのは江戸時代から(洒落本・両国栞)。実は別名として「レイチョウ霊鳥」とも呼ばれていた。雷鳥の雷は本来は「しょうらい精霊」の如く、霊だった。それに神様のお声たるカミナリ雷が重なって、次第に雷鳥が用いられるようになった。新潟県におなりどり御鳴鳥(新潟県北魚沼郡)の方言があるのもイカヅチの声を伝える鳥という事からだろうね。気分は、なんちゃって柳田國男。テレビ人形劇のサンダーバードは雷鳥とは関係なく、インディアン伝説の幻の鳥の事。 君:資料が多いと考察も楽だわね。 私:古本漁りが趣味になろうとは。今はなんでもかんでもネットの時代だから古本探しも大助かりだ。鳥の名前を記載した本を買った事は覚えているが、書庫を探しても見つからなかった。書籍は家から一切、持ち出していないのに。嗚呼 君:このサイトの構成と同じで、要は整理が下手なのよ。貴方の得意技は積読乱読よ。 |
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