大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム |
さい(=おかず) |
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私:新穂高ロープウェーの売店限定の商品で「めしのさい」というのがあったよ。 君:ほほほ、方言グッズね。直訳すると「ご飯のおかず」ね。 私:ごくありふれた飛騨方言だね。高山近郊で1953年生まれの私だが、子供の頃には使ったし、大西村の方言には間違いないのだが。 君:新穂高ロープウェーについてご説明なさったほうがいいわよ。 私:うん。同ロープウェーは岐阜県高山市の上宝(かみたから)村、奥飛騨温泉郷にあり、日本で唯一の二階建て。穂高連峰というと長野県・上高地のイメージが強いと思うけれど、岐阜県と長野県境の山々。岐阜県側が上宝村というわけで、ロープウエーを利用すれば穂高の登山が格段に容易になる。ただし、これが北アルプス登山の怖いところで、過去には何人もの行方不明者、その多くが単独登山、というようなところだ。山頂駅界隈を散策するだけなら子供連れ親子にもお勧めと言ってもよい。山頂駅には食堂があり、カレー、ラーメン、等々。 君:貴方の村でも使われる語彙「さい」が、飛騨の辺境・上宝でも使われているのでは、と考えたのね。 私:飛騨は広い。端から端までの車の移動でも一日がかりだが、あまりにも共通語彙が多いと思う。 君:理由は簡単よね。 私:★律令制下で飛騨の各村々から都へ飛騨工が使役に駆り出され、その数は延べ四万人。奈良・京都では共同体で働き、故里と都を行き来していた事。★江戸時代に天領・飛騨となり、地形的に飛騨の中心に位置する高山市は代官所があり、飛騨が一つのまとまった政治文化圏だった事。★大原騒動では飛騨の農民全員が飛騨一ノ宮・水無神社に集い決起したというような土地柄。★隣国はその境が人の行き来を拒む深山幽谷にて古来から婚姻圏となり得ず。 君:そうね。そして古代に遡れば飛騨の民は全員が遠縁。ひとつの文化圏。多分、上宝のどなたかが商品「めしのさい」の名付け親なのよね。 私:ああ。また語源については書くまでも無いが「さい菜」。つまりは野菜。ところで「さい」は尾高アクセント。 君:当然、古語に由来するのよね。 私:勿論だ。 君:でも、市販の古語辞典に収載されていないわ。 私:ははは、ところがおっとどっこい。小学館日本方言大辞典全三巻には記載があったぜ。 君:御見それしました。出典は。 私:さい(名詞)。おかず。出典は今昔31/31「あぢ(味)はひの美かりければ、これを役と持て成して采のれう(料)に好みけり」 君:あらら、素敵な文例じゃないの。 私:「役と」は「役目として」が原意で「わざと」。飛騨方言にもなっている。古語「れう」は「あらかじめ、その用に充てるために、計らい用意されたもの」。 君:飛騨方言「さい」は野菜が原義だけど、おかずならなんでもいいのよね。 私:勿論だ。野菜、漬物、魚、なんでも。ご飯以外は全て「さい」だ。飛騨方言では「おさい」とも言う。 君:全国の方言になっているのね。 私:勿論だ。東北から九州まで、各地の方言になっている。 君:「さい」以外の音韻変化もあるのよね。 私:勿論だ。「ごさい」山形、「せー」新潟、「しぇー」熊本、「へぁ」秋田、「うさい」石垣島、等々。きりがない。 君:よかったわね。飛騨方言では音韻の変化が生じなくて。 私:今昔物語は平安末期だからね。 君:野菜の古語は「くさびら草片」「せんざいもの前栽物」「はたつもの畑物」よね。 私:方言にはなっていないね。 君:おかずの古語と言えば「てうさい調采」「な菜」「あさな朝菜」「ゆうな夕菜」。 私:そう。つまりは和語としては「な菜・肴」だよね。そして国訓で「さい」。白菜、野菜、くん采、蔬菜。 君:ほほほ、青菜だけが「あおな」。古代、中世の方々はおかずといえば野菜を意味していたのかしら。 |
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