大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム

すま(隅)

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私:飛騨方言で「隅っこ」のことを「すま」というのだが、なかなか古語辞典には記載が無いね。
君:少し訛っただけの話。それだけよ。どの古語辞典にも「すみ隅」の記載は有るわよ。
私:僕もそう思っていた。ただし広辞苑に古語との記載があったよ。山家集。「播磨路や心のすまに関据えていかでわが身のこひをとどめん」
君:山家集は平安末期の歌僧の西行法師の歌集ね。いやだ、地名の須磨と「すみ隅」をかけているという事じゃないの。
私:僕もそのように思う。播磨は兵庫県、須磨は神戸市。歌意は「播磨の国の須磨の関が人の自由な往来を拒むように、この心の片隅にまだしまっているあのお方への恋心をこの場所に捨て置いて旅を続けようか。いや、そんな事は出来ない。僕はあの人がどうしても忘れられない。あのお方との出会いは僕にとっては人生の大切な思い出だ。大事に心の片隅にしまったままあの人の思い出と共に旅を続けよう。」夢の途中
君:つまりは都落ちなさる貴方が須磨の関でお詠みになるのよね。ふふっ、あの人ってだあれ。
私:さあね。須磨は昔から歌枕だよね。あそこは。飛騨には歌枕が無いんだよね。嗚呼
君:須磨の浦は沖に淡路島を望む白砂青松の海岸で月の名所、海人(あま)・塩焼き衣(ごろも)・塩焼く煙などの言葉が共に詠み込まれ、さびしさ・悲しい恋などをテーマとした歌が多い地名なのよね。
私:今、源氏を読んでいるが、正に十二帖「須磨」・十三帖「明石」の辺りの話だね。ところで広辞苑だが、「すま=スミの訛り」との記載だ。
君:やはり、平安時代から既に「すま」と発音すると訛りと認識されていたのよね。つまりはこの歌だけが強引に「こころのすみ」「心の須磨(隅)」と詠んだ掛け詞という事かしら。
私:だろうね。だから、こんな事は高校生は覚えなくてもよいという事で、多くの古語辞典に「すま」の記載が無い、という事だろうか。
君:多分ね。おそらく。
私:ふふふ、でも、とても面白い事実がある。
君:なによ、そのお顔。全国各地の方言と関係するのね。
私:ははは、お察っしがいいね。
君:小学館日本方言大辞典全三巻をお調べになったのでしょ。語数20万よね。今まで耳に明石のたこができるほど聞かされたわよ。
私:ははは、明石ダコは有名だね。タコ焼き、タコ天。その通り、「すま隅」は全国各地の方言として生きている。
君:でも須磨を中心として、主として関西の方言なんでしょ。
私:いや、違う。東北、関東、飛騨、北陸、東海、三重、関西、中国、四国、九州。
君:なるほど。となれば歌枕説「須磨からの連想でスマ隅」は完全に否定されるわね。
私:大胆に推論すると、平安以前の中央で和語「すま隅」があって、全国へ地を這うような伝搬の仕方で広まった。ただし平安時代に中央では「すま」から「すみ」への音韻変化が生じて現代に至る一方、「すま」は今も全国の方言として残っているという事じゃないのかな。
君:つまりは、訛りという記載は山家集の一句のみに当てはまるのであり、現に全国各地で話されている方言「すま」をどうやって説明するのか、という疑問よね。
私:その通り。天下の広辞苑に物申す。記載が偏向していませんか。「すま」は「すみ」の古形かもしれませんよ。
君:でも、文献が無いという事なのよね。
私:実は全国各地の方言「すま」だが、更に相当、音韻変化している。すまくさ・すまくじ・すまくじら・すまくた・すまくら・すまこ・すまごと・すみくた。きりが無いのでこの辺で。
君:なるほど、語幹「すま」にありとあらゆる接尾語(辞)、方言文末詞が連結した複合語だわね。
私:変わったところでは「すんくじら」鹿児島県。
君:ほほほ、それじゃあ「すまくじら」は何処なの。
私:「すまくじら」は青森県の上北郡と三戸郡だ。
君:青森と鹿児島で「すみ隅」+「くじら」、語源は考えるまでも無いわね。
私:勿論、考えるまでも無い。
君:でも一応はお書きにならないと。
私:いや、あなたがご説明を。たまには。
君:いいえ、ここは貴方のサイトだから。
私:では、答えは「捕鯨」。小舟の皆がよってたかって一頭のクジラを湾の内側、つまりは隅に追い込んだ。
君:そう言えば、マンモスの狩猟もそんな感じよね。
私:そうそう。皆が槍でマンモスを或る場所へ追いやる。
君:ほほほ、その場所の名は死の谷。「ガケマンモス」。
私:いきなり「ガケ」はないでしょ。「スママンモス」が「ガケマンモス」になって息絶える。
君:それを言うなら「かたぎし片岸マンモス」かしらね。いとをかし
私:ところでクジラの古語は「いさ」「いさな」だよね。
君:その通り、「いさな勇魚」よ。
私:という事は「勇ましい」+「さかな」でイサナだろうか。
君:安易すぎるわよ。「さかな魚」の古語は「いを魚」。「サカナ肴」の原意は「さか酒」+「な菜」。
私:幻の方言「スマ・イサナ」。
君:そうね。マンモスは知らないけれど、象の古語は「きさ岐佐」よ。幻の古代語「かたぎし/に/からるる/いかき/きさ・片岸駆厳岐佐」。

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