大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム |
ぬし(主) |
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私:飛騨方言の対称への敬語に「おぬし」がある。男性に対して用いられる事が多いのかな。 君:女性に対して、おぬし、はあまり言わないかもしれないわね。「これ、どこそこ家のかかさま」などの呼びかけが多いのじゃないかしら。 私:男が男に対しては「おぬし」は使うね。これが更に音韻変化して「おんし」になる。更には「おんさ」にもなる。 君:「し」が「さ」に音韻変化したのかしら。 私:いや、飛騨方言では「さ」単独で敬称になる。つまりは郵便屋さんは「郵便屋さ」だ。つまりは「さ」は「さま様」の短呼化、つまりは「おんさ」は「おんさま御様」あるいは「おぬしさま御主様」の短呼化だろうね。さらには「おんさ」が音韻変化して「うんさ」「うさ」とも言う。何れにせよ、死語に近いだろう。 君:日本語の人称代名詞の多さは異常よね。方言ともなると更に多いのでしょうよ。 私:ははは、いい感しているね。小学館日本方言大辞典には、みだし「ぬし・主」の項目にびっしりと書かれているよ。全国共通方言というのも重要なキーワード。東北のある地方と四国のある地方で同じ言い方とか。要は日本人が話す日本語なのだから同じ発想で同じ言葉が生まれてもなんら不思議はない。ただしこれらの語彙群に共通して大切な共通項がある。それはつまり・・ 君:・・ほほほ、すべて古語の名詞「ぬし主」から派生した言葉というわけね。 私:その通り。何も付け足す事はない。強いて付け足すとすれば「ぬし主」の語源は「うし大人」だ。つまりは長上の人を尊敬していう語。「〜の・うし」という複合語から「のうし」が独立し、やがてこれが「ぬし」になったという説が有力。 君:有力な語源説には逆らわない、というのが左七の哲学なのよね。 私:そう。自分の意見は言わない。僕が考えるような事はたいてい誰かが既に考えている。ところでひとつだけ意見を述べさせていただこう。上古の「うし」の時代は問題がなかったが、中古・近世の「ぬし」の時代になって、ひとつ問題が生じている。 君:問題? 私:ずばり、答えは、「うし」は上記のひとつの意味だが、「ぬし」ともなると様々な意味が加わるようになった。主人、支配者、対称敬語、行為の為し手、歌・句の作者、人全般またはその敬語、それどころか遂には敬意逓減の法則により「ぬし」は、さげすみの意すら含むようになる。ぶっ 君:そうね。現代語としてもSNSのスレ立て人を「ぬしさん」と言うわね。 私:そう。蛇足ながら「スレたて」とはスレッド、つまり主題を提起する人の意味。「ぬしさん」の常套句が「拡散させてください」という言葉。うかつにのらない、というのが理性ある大人の取るべき態度だ。 君:まとめだけれど、飛騨方言では貴方様の意味で「おぬし・おんし・おんさ・うんさ・うさ」という事ね。 私:その通り。そして語源は「うし大人」。 君:まあ面白い事、「うさ御様」の語源は実は「うし大人」なのよね。「し」が「さ」になったとはいえ、語源学的には「ぬし主」経由なんですよ、と左七は言いたかったのよね。若しかして本邦最初の情報発信よ。ほほほ |
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