大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム 飛騨美濃方言考

飛騨・あるかまいか、美濃・あるこまいか

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新聞記事に来月の催し、題して"岐阜で歩こまいかキャンペーン" が ありました。飛騨方言では、あるかまいか、になります。

古典の復習になりますが、助動詞特別活用・まい、は 四段活用の終止形に接続、それ以外の未然形に接続、とあります。 ところが飛騨方言では四段及びそれ以外、つまりは 全ての動詞の未然形に接続するのです。 従って、あるかまい、は歩く事はないでしょう、 という打消し否定の意味です。 さらに疑問の係助詞・か、が「まい」に接続して二重否定、 つまりは反語になり、あるかまいか、は、 歩かないでおらりょうか、という意味になります。 非常に簡単な説明です。

ところが問題なのが、岐阜市方言の、あるこまいか、という言い回しでしょう。 同キャンペーンは開催地が岐阜市ゆえ参加者の大半は岐阜市民という 事を意識して岐阜市方言で命名されたのですね。 あるこまいか、とは、歩こうまいか、という事でしょうか。 ただし、歩こうキャンペーン、では味がない。 岐阜市方言は五段活用しているのですから、 未だに四段活用である飛騨方言に比し新しい言い回しという事なのでしょうね。 古くは、あるくまいか、と話されていたのでしょう。 現代口語五段活用の、あるこう、という言い方が 出来て後に、あるこまいか、という混交表現が 生じたのであろうと筆者なりに推察します。

飛騨方言に戻りましょう。古くは、あるくまいか、 と言い、中世あたりから四段活用も他に習えで、 未然形に接続・あるかまいか、に変化したのでしょうか。 言い換えましょう、古語の言い回しが更に進化したのでしょうか。

事実はまさにその通り。 古語辞典には、助動詞特別活用(特活)・まい、は中世以降の口語表現であり現代に至る、との記載です。 また更に、まい、の古形は、ましじ・まじ、であり ラ変以外は終止形に接続する言葉です。 未然形に接続する形は後代の言い回し、 また飛騨方言においては四段動詞は五段化せず、 未然形に接続すると言う事は、あるくまいか、 から必然的に進化して、あるかまいか、となったのでしょう。

ですから飛騨方言話者・佐七はこの事に誇りを感じます。 実は混交表現である岐阜方言と異なり、 飛騨方言の活用は単純かつ理屈に合い、そして響きが美しい。 あるかまいか、とはつまりは、歩かないか、という事。 例文を示しましょう。
およがまいか 泳ぎましょう
かかまいか  書きましょう
なかまいか  泣きましょう
わらわまいか 笑いましょう
おこらまいか 怒りましょう
はなさまいか 話しましょう
かたらまいか 語りましょう
やはり愛着を感ずる飛騨方言ですね。

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