言霊(ことだま)とは言葉に宿る不思議な力という事で、
例えば愛の言霊・よい意味にも、例えば忌み言葉・悪い意味にも用いられます。
各種ネット情報がありますので拾い読みするだけでも面白いものです。
さてまずは、警察が来る、という言葉ですが、これが大西村の日常会話に出てくる事はそれはもう、
この世の終わりを意味します。
読者の中には警察官、あるいはそのご家族がお見えでしょう、
そして警察とは若しや嫌われ者ですか、いったい何故そんな言われ方をしなければならないのか、
到底理解が出来ないと思われましょう。
ご尤もですし、ご安心ください。ご説明します。
とにかく飛騨は片田舎、それでも高山市街はいざ知らず、
大西村のような部落になりますと全員の面が割れており、
しかも遠縁・近縁入り乱れて要するに全員が仲間、
全戸が貧しく、またその収入すら丸わかりです。
共同財産・要は入会地・村林という財産すら共有する人達の集合なのです。
ひとの出入りも全て丸わかり、都会に働きに行く若者も、
また婿がきても、嫁がきても全戸が祝福するでしょう。
見知らぬ車が道を走れば、いったい誰の車だという事になるのです。
実際には見知らぬ車は村には入ってきません。
ですから村の家々は玄関に鍵をかけません。昼も夜もです。
村人通しのいざこざも無いともいえます。
村では毎月、寄り合い、と言って各戸の代表者の集会が
あり、全てそこでの話し合いで物事が決まります。
このような村に犯罪など起こりようがありません。
そのような所へ警察のパトカーがやって来ようものなら、
それはもうこの世の終わり、何かとにかく大変な事件があったらしい、
という事になるのです。
子供は親が一言発する威嚇のことば、"そんな事せると警察が来るぞ。"
が最大の忌み言葉で、恐怖におののくのです。
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