大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム |
やまびこ |
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私:「やまびこ山彦」は共通語であり、方言ではないが、結構な頻度で飛騨地方の施設・組織・文化行事などに使われているキーワードである事を先ほどのネット検索で知った。詳細は割愛させていただく。 彼:検索なさらずとも、飛騨は山国なので当たり前のことだと思いますが。 私:そうだね。ただし自分自身の原体験として、裏山でよくこの遊びをした事を懐かしく思い出す。都会の方々、所謂、故郷をお持ちでない方々にお話しさせていただくと羨ましがられると思う。飛騨人に愛されている言葉には間違いない。素直に共感できる。 彼:そうですか。 私:飛騨方言でも「やまびこ」以外に「こだま」があるが、全国的に方言量は1に近い。地方は割愛させていただくが、あまのじゃく、おぐめ、こびき、やまんば、等々、散発的につき孤立発生論で説明可能。 彼:つまりは「やまびこ」「こだま」は和語ですね。4モーラ山彦に方言が無いのは何故でしょう。 私:例えば「あからさま」「あらかじめ」などは現代に生き延びた和語。でも方言は出来なかった。ヤマヒコの場合、ヤマもヒコも2モーラ和語にて方言は成立せず。従ってヤマヒコも方言は成立せず。 彼:古代は「やまひこ」つまり清音だったのですね。 私:その通り。万葉集にあるね。山妣児。 彼:濁音化したのはいつの時代でしょう。 私:撰集抄(寿永2年(1183年)。ザクッと言えば平安に清音から濁音に、そして現代に至る。 彼:語源はどうでしょう。「ひこ彦」と言えば男性、海彦・山彦からでしょうか。 私:いや、それは違う。海彦・山彦は正式には海幸彦・山幸彦で、略して海幸・山幸だが、言わずと知れた古事記の世界、つまり日本神話の列記とした固有名詞。山幸彦は正式には火遠理命(ほおりのみこと)たる山佐知毘古。山幸彦は兄・海幸彦の大事な釣り針を無くし嘆いていたが、塩椎神(しおつちのかみ。潮流の神)のおかげで綿津見神(海神・わたつみ)の宮殿へ案内された。山幸彦と海神の娘・豊玉毘売命「豊玉姫」が、何とお互いに一目ぼれ、即、結婚、豊玉姫は身ごもり・・と言う様な神話の国・九州を舞台とした華麗なる日本神話の世界・元祖竜宮伝説。 彼:古事記は神話の世界、空想小説ですか。 私:うん。見方によってはね。だから神話の嫌いな読者の皆様にはさようなら。でも私は当時の日本人の思想を記した歴史書ととらえる。それはさておき、ヤッホーの山彦は山幸彦とは何ら関係ない。「ひこ彦」の語源は「ひこ日子」という事で現代にも通ずる男子の総称だが、古代は男神、男子の名に付けていた。「やまひこ」は「山の男の神様全般」という意味。「ひこ彦」は「ひめ姫」つまり女の神様と対峙する概念だ。飛騨は山々が連なる国で山の神様が各々の山に宿っていらっしゃるという古代山岳信仰から来た言葉だね。 彼:でも全国の方言の話題に戻りますが、「やまんば」というのがあるようですが。 私:ははは、これは女神様とはいいがたいね。語源は「やまうば山姥」。深山に住むという鬼女。恐ろしい形相をして人を食うとされるが、民話の中では人を助ける山姥もいる。世阿弥の謡曲「山姥」が有名、この辺りから方言なったのだろうかね。また金平浄瑠璃以来、山姥は坂田金時の母とされている。 彼:なるほど分かりました。「やま」「ひこ」共に最重要な古代の和語なので例え複合語で4モーラになったとて、方言は発生しないですね。 私:その通り。古代から人々の心には「やまひこ」は「やま・ひこ」という言霊思想があった。要は濁音化して一般名詞に格下げという事。 彼:「こだま」はどうでしょう。 私:それもいい例だ。古語辞典には木の神様という意味の和語の記載。木霊、木魂、樹神、等の表記がある。源氏・夢浮橋はじめ今昔にも出てくるね。「き」の交替形「こ」は専ら立ち木を意味する、従って「き」+「たま」は不成立。やまの立ち木「こ」の「みたま御霊」が「こたま」、これも木の神を敬う言霊思想から来ている。濁音化して一般名詞に格下げ、は山彦の言葉と同じ現象。徒然には既に「こだま」の記載がある。 彼:何れにせよ、山の神様、木の神様のお声という事ですね。 私:いや違う。自分の声が跳ね返ってくる、そんな事は古代人でも知っていた。但し、音は空気の振動、つまり波であり、硬い物にぶつかると跳ね返ってくるという物理法則が働いている事を古代人は知らなかった。反響という物理現象を操っているのが神様だ、と思っていたという事。この言葉で締めくくろう。「情けは人の為ならず」、これはどんな意味か、お聞きするのも恐縮だが、高校入試程度の問題かな。 彼:ははは、情けは他人の為に行うのではなく、結局は自分の為に行う事なのですよ、という意味ですね。 私:正解だ。情けをかけるとかけられた人は堕落してしまうのでその人の為にならない、という意味ではない。情けをかけると人は必ず感謝して、恩を返してくれる。だから他人にドンドン、ありったけ情けをかけなさい、という意味だ。つまりこの現象は? 彼:ははは、山彦ですね。 私:そう。文化庁ページがヒットしたが、若い世代に誤解が多い傾向がうかがえる。山彦論というよりは仏教説話に出てくる大切なモチーフと言ってもいいね。つまりは因果応報の原理。善因善果。良い事をすれば必ず良い結果になる。 彼:なるほど。ところで、どうして「やっほー」と皆が言うのでしょう。 私:答えはひとつ。万国共通。人間はどうしてもそう叫びたくなるらしい。つまりは医学生理学的な理由。国語学的な意味は無い。 彼:なるほど。それと、柳田民俗学がお好きなんですね。 |
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