大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム |
母音交替(い・え) |
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私:今夜は不作の晩といってもいい。安易な方法として土田吉左衛門「ひだの言葉」から母音交替(い・え)の項目を引用させていただこう。 君:不作の意味が分かりづらいわ。 私:あれこれ一時間以上、調べものをしていてもインスピレーションが湧かなかったり目ぼしい情報が無かったり、寝る時間が迫ってしまったという意味だ。 君:毎日飽きもせず二時間も散歩している間に何を考えていたの? 私:昨晩に続き終助詞の事を考えていた。今夜は夕食後、一時間ほど、上古の終助詞で現代の飛騨方言に痕跡が無いか、調べた。 君:上古と言えば奈良時代ね。結論はゼロという事でしょ。ほほほ 私:飛騨工が奈良と飛騨を行き来していたからね。結論はゼロでも収穫はひとつあった。 君:長い前置きね。サッサと収穫を一言で言って頂戴ね。 私:ああ、上代のみに残る終助詞はふたつのパターンがある事に気づいた。ひとつは東国方言の終助詞。もうひとつは平安になって変化を遂げた終助詞。これからわかる事は、飛騨方言には東国方言の痕跡は無い。つまり、奈良時代の飛騨は大和の国の東の果てだったという事。つまりは乗鞍、飛騨山脈が国境だったという事だ。平安の終助詞はまたの機会に。でも格助詞でひとつ気づいた事が更にあった。「に」が「ね」になる事がある。文例としては「行かずね(=行かずに)」とかね。「こんね(=こんなに)」などの音韻変化がある事も直ぐに思いつく。 君:なるほど。長い前置きね。ではどうぞ。 私:飛騨方言では「い->え」「え->い」の母音交替がある。土田辞書によれば、まずは「い->え」だが・・・いちえ(=一位)、えが(=いが毬)、くえ(=杭)、えんろう(=印籠)、けせろ(=煙管)、つばけ(=つばき唾液)、せーな(=しいな粃)、ねんじん(=人参)、やね(=やに脂)、ねらむ(=にらむ)、かんねん(=堪忍)、へざ(=膝)、へんべ(=へび)、あべる(=あびる)、へねる(=ひねる)、めめぞ(=みみず)、めぞ(=みぞ)、それ(=そり橇)、ごたいげ(=御大儀)、ほぜくる(=ほじくる)。続いては「え->い」だが・・・がいろ(=かえる)、いんびつ(=鉛筆)、いくぼ(=えくぼ)、ささぎ(=ささげ大角豆)、てまい(=手前)、ときえ(=時計)、あきび(=あけび)、ぎじぎじ(=げじげじ)、はい(=蠅)、だり(=誰)、とりびや(=とりべや鳥舎)。 君:ほほほ、死語のオンパレードね。それに人称代名詞は全て「え->い」、おり俺・わり我の如しよね。 私:正にその通り。だが、数割は、やはり、自然に僕の口からも出てくるね。それともう一点、実はとても書きにくい事なのだが・・・。 君:いいわよ。お書きになってね。 私:土田先生、折角の立派な辞書なのに痛恨の凡ミスをなさいました。「い->え」の項目に、ささげ(=ささぎ大角豆)とお書きになった。つまり逆。 君:本文はどうなの。 私:勿論、ささぎ(=ささげ大角豆)。何度も慎重に著者校正なさって後に出版という事だったに違いないが、とうとう最後までお気づきになられなかったようだ。ついでだからという事で八坂書房「日本植物方言集成」も開いた。 君:それで結論は? 私:いやあ、安心しました。ササギの項目に、青森、岩手(上閉伊)、秋田(雄勝)、埼玉(入間。北足立)、千葉(長生)、神奈川(津久井)、岐阜(吉城)、和歌山(日高)、山口(厚狭)、福岡(久留米・八女・築上)、佐賀(東松浦)、長崎(壱岐)の記載。 君:ほほほ、よかったわね。ササギは旧吉城郡の言葉だったのね。 私:そのようだ。 君:ササゲの方言量は幾つかしら。 私:ははは、数えたぞ。129だった。 君:多いわね。これでまた原稿がひとつ書けるわね。 私:勿論だが、またの機会に。 君:それでもよかったわね。土田吉左衛門「ひだの言葉」が八坂書房「日本植物方言集成に救われた記念すべき日よ。 私:方言は奥深いわね、と君に言われて僕の心がほっこり、今夜は二人のササゲ記念日。 君:なにをサラダ記念日(俵万智)みたいな文章を書いてるのよ。ほほほ |
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