大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム

おりょっ?(あれっ?)の語源に関する一考察

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私:遂に買いました、角川古語大辞典全五巻。総ページ数五千以上。項目数、約100,000項目、文字数、22,300,300文字。国内唯一の出版物。今日、届いた。
君:えっ、とうとう買ったのね。定価175,000円(全5巻)+税よ。正気の沙汰?国文学の研究者向けの書籍よ。
私:一寸の虫にも五分の魂。これでも国文学の研究の真似事をしているつもりだ。本は実は古本。だから価格はその数分の一。何か月もネットで価格を調べていた。
君:ほほほ、よかったわね。理解のある奥様で。
私:実は事後承諾作戦。イェーイ、お許しいただけた。結婚は間違っていなかった。当分、頭が上がらない。
君:多分、奥様はあなたが使い尽くす、読み尽くす事を直感なさっていらっしゃるのよね。
私:暇を見つけてはコツコツと読み終えたいと思っている。早速に「おりょっ?(あれっ?)」の語源のお話にしよう。
君:先だっては「あれっ?」の語源は「吾れ」だろう、と書いていなかった?
私:その気持ちは基本的には変わらない。
君:ところで、真っ先に角川古語大辞典の「あれ」(感動詞)の箇所を読んだのでしょ。
私:その通り。
君:で、どうだった。
私:やはりすごいね。「あれ」(感動詞)の記載があった。
君:それで。
私:語源は指示代名詞「あれ」の転用。ただし「あ」に比して認識の対象化が含まれる。
君:ほほほ、文例は。
私:あれ狐よとどよまれて、まどひ逃げにけり。徒然230。
君:なら、いいじゃない。
私:ちょっと待ってくれ、と言いたい。
君:ほほほ、なんなの。
私:近称、中称、遠称、不定称、つまりはコソアド。最も近い物、それは自分にくっついている物。次に近い物、それは目の前にありありと見えるもの。最も遠い物、それはよく見ればそれと認識出来る物。
君:なるほど。「あれ狐よとどよまれて」は「よくよくみれば遠くのあれは狐だと大騒ぎになって」という意味ね。つまり遠称。
私:確かに驚いたのだろうが、まさか狐が、という意味であって、ギャ!狐だ、の臨場感は無いね。
君:でも、そもそもが「あれっ?」とは、あらら・なにかしらと遠称に対する感情表現で使うからいいんじゃないの。
私:そうかな。「あれっ、僕の服に染みがついている」とか「あれ、うまそうな漬物」とか言うでしょ。近称、中称でも感動詞「あれ」は使うんだよ。それが指示代名詞「あれ」が語源とおっしゃるのは納得いかないな。
君:つまりは感動詞「あれ」は近称、中称、遠称いずれにも用いられ、遠称に対する品詞「あれ」が語源とするのはおかしいという意味ね。
私:上記の例だと「こりゃ染みだ」とか「それはうまそうな漬物」という事になると思う。
君:せっかく素晴らしい辞典が手に入ったのだから少しは花を持たせなさいよ。
私:いや、そんなわけにはいかない。僕は角川書店のスポークスマンじゃない。
君:以前、何度か言ってたわよね。
私:そう、天下の広辞苑に物申す。
君:という事は、天下の角川に・・。
私:いや、そうじゃない。結局はこれだけの大部の書物でも完全とは言えないという事。それだけ、古語・日本語の世界が深遠であるという事なのだろう。
君:ともあれ、この角川古語大辞典があれは他の古語辞典は必要なさそうね。
私:そんな事は無い。
君:あら、どうして?
私:確かに語彙は多い。高校生が使う古語辞典の数倍以上の語彙だろう。ただし語彙だけに特化した辞典。つまり巻末資料は一切、無い。
君:ほほほ、巻末資料って味わい深いわよね。
私:ああ、大好きだね。一日読んで考えていても飽きない。
君:何にせよ、役者が揃ったわね。
私:ああ。角川古語大辞典全五巻、小学館方言大辞典全三巻、明治書籍現代日本語方言大辞典全九巻(含・補遺)、その他辞書。
君:手始めの「あれ」は少し残念だったわね。
私:「あれ松虫が鳴いている♪」という歌詞にはぴったりの説明だったね。
君:虫の音だけが聞こえている。庭のどこかで。つまりは遠称ね。
私:虫は見えないんでしょ。不定称じゃないのかい。
君:もう、情緒が無いわね。音韻よ。言葉の響きよ。あれ、じゃなきゃだめ。あなたに詩人の資格なし。

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