大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム・泣ける言葉

中部縦貫道

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私:今夜も飛騨方言の話。
君:ちょっと待ってよ。高速道路の話?
私:ああ、そうだ。だから国語の話題、つまりは文科省というよりは国土交通省だな。
君:そもそもが方言の話と高速道路の話は無関係じゃないのかしら。
私:まあね。ただし少し上から目線の話とお感じになるかも、若しそうだったらゴメンネ。
君:いいから、好きな事をおっしゃりなさいよ。
私:僕は古典が大好きだ。古語辞典を読む事も大好きだ。ただし、そんな事ばかりをしていると方言学の本質を見失ってしまう。
君:見失う?
私:そう、見失う。方言学のセンスを磨くのに古語文法の知識は必須、但しそれは実は十分条件ではない。もうひとつの必須の知識、それは飛騨の地勢学だ。フィールドワーク無しの方言学は有り得ない。
君:飛騨はハイランドよね。
私:そう。飛騨を一言で表すと日本の屋根。太平洋文化からも日本海文化からも隔絶された世界。そんな陸の孤島に自由に言葉が伝わるわけがない。
君:でも、言葉が遡上してくる場所があったのよね。それはどこ?
私:川だ。太平洋側からも日本海側からも言葉が川を遡上してきた。
君:北は?
私:たった二つ。白川郷と富山県砺波平野を流れる庄川と岐阜県神岡と富山県猪谷の間を流れる神通川(宮川と高原川が合流)。
君:南は?
私:なんといっても飛騨川だな。飛騨金山と七宗町(美濃)の間を流れる中山七里は交通の最難関。郡上を流れる長良川と飛騨の清見村、所謂、せせらぎ街道だが、迫力に欠ける。
君:東は?
私:信州松本と飛騨高山を結びつけるのは上高地を水源とする梓川。梓川渓谷の厳しさは日本有数だろう。とても人の住めるところではない。もうひとつは岐阜県の日和田高原と長野県の開田高原、野麦峠と長峰峠だ。人は住めないね。
君:西は?
私:飛騨は石川県、つまりは金沢と接しているがなにせ霊峰白山が阻む。飛騨人にとって金沢は異郷の地。もうひとつは、飛騨が郡上をクッションとして接しているのが福井県だが、九頭竜渓谷・油坂峠という事で、福井大野と郡上は隔絶されている。
君:要は縄文時代から明治に至るまで飛騨は東西南北ともに隔絶されていたのね。
私:要はそういう事。より具体的には婚姻圏。つまりは上古以来、飛騨がひとつの婚姻圏。出身が飛騨というだけで十数世代さかのぼれば全員が親戚に違いない。愛しの君へ、これが左七の主張だ。そして畿内文法+坂東アクセントという独特の飛騨方言が生まれた。飛騨方言の成立について最も無視できない事が白山と乗鞍に囲まれている事。乗鞍があるから飛騨方言は信州方言とは異なる。白山があるから飛騨方言は北陸方言とは異なる。
君:それはいいから、今夜は高速道路・中部縦貫道のお話だわよ。高速道路名がどうして方言なの?
私:それはとてもいい質問だ。「中部縦貫道」という(お遊びの)言葉が飛騨以外の地域で語られる事はないだろう。地域の言葉、だから方言。
君:中部縦貫道って、まさか新潟県の糸魚川と静岡県浜松まで南北に、つまりは北アルプスに沿って高速道路を作ろうというの?聞いた事ないわ。
私:さあ、ここからが国語の時間だ。国土交通省が定義する「縦断・横断」とは日本列島の分水嶺に沿うのが「縦断」、分水嶺に直交するのが「横断」なんだ。東海北陸道は愛知県一宮と富山県砺波、つまりは綺麗に南北に走る高速道路だが、実は日本列島の分水嶺を横断する高速道なので実は南北に伸びていても横断道。他の例としては長野道なんかもそうだね。
君:中部縦貫道って?
私:こんな事に入れ上げているのは岐阜県だけ。ウエブサイトはここ
君:あらいやだ。長野県松本と福井県福井を結ぶ高速道路って、日本海側と日本海側を結びたいのね。しかも日本列島を真横に横切るのに縦貫道なんて言葉が絶対に可笑しいわよ。
私:思いっきり笑ってくれ。中部地方を真横に繋ごうというのに、この計画線は本州の分水嶺に沿っているので定義的には縦貫道なんだ。ぶっ
君:山また山。大変な工事ね。少しは出来ているのかしら。
私:実は・・・高速道フェチの左七・・オートバイが好きでよく出かけて工事状況を見ている。2021秋現在だが、結構、工事は進んでいる。国土交通省と岐阜県・長野県・福井県の本気度がヒシヒシと伝わる。やつらは本当に松本と福井を高速道路で結ぶつもりだ。飛騨に限っては丹生川村あたりで工事がかなり進んでいる。
君:「やつら」はないでしょ。
私:でも採算合うのかな。税金の無駄使い?
君:東京からも関西からも飛騨へ高速道路でチョイという時代の幕開けなんでしょ。飛騨の人々は大歓迎よ。中部縦貫道は東名、新東名に続いて東京と大阪を結ぶ日本の大動脈になるのよ。然も飛騨高山を通るのだから。
私:そんな事をしたら僕の大好きな飛騨方言がなくなってしまう。
君:ほほほ、馬鹿をおっしゃい。飛騨方言は不滅、中部地方のど真ん中、日本のへそに飛騨方言有り。泣けるって、若しかしたらうれし泣き。ほほほ

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