大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム しびれる言葉

白眞弓・白檀弓(しらまゆみ)

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私:白眞弓といえば古語辞典に記載があるね。古代に用いられた弓の事だ。
君:檀木(だんぼく)からつくられる弓の事よね。弓の素材としては、竹が多いと思うけど、現代においてはグラスファイバーかしらね。でも、唐突だわよ。どうして白眞弓が飛騨の人達が大好きな言葉なのか、全国の皆様にわかりやすくご説明なさらなくては。
私:そうだね。ひとつには「白真弓」という地酒がある。白眞弓・白檀弓にちなんで、という事である事は書かずもがな。
君:でも白眞弓は飛騨の専売特許じゃないでしょ。
私:いきなり種明かし。「白眞弓」は万葉集に出で来る古い言葉。そしてこれは「斐太」にかかる枕詞だ。白真弓(しらまゆみ)斐太(ひだ)の細江の菅鳥(すがどり)の妹(いも)に恋ふれか眠(い)を寝かねつる。万葉集3092。
君:数少ない飛騨の歌よね。
私:そう。恋の歌。
君:枕詞から説明してね。
私:うん。「しら」が「ひだ」と同じ響きの言葉であるとか、白眞弓の弓を引くの「ひ」を飛騨の「ひ」にかける、などの説がある。
君:確か、白眞弓は他にも枕詞になっていないかしらね。
私:その通りだよ。弓を張るから「春」にかかることがある(万葉1923)。弓を射るから「い」の音を含む地名「いそべ(万葉2444)・いるさのやま(古今六帖2)」にかかることもある。
君:あらら、弓を引くから斐太にかかる、という説が有力じゃないの。
私:まあ、そんなところだな。
君:歌の意味を教えてね。
私:うん。白真弓と言えば飛騨、飛騨と言えば細江の水辺に菅鳥(すがどり、オシドリ)が生息している。オス鳥はメス鳥に夢中だ。そのオシドリのオスのように私もあなたに夢中になっている。そのせいかちっとも眠れない・・ってな意味だな。
君:妹(いも)は女性の敬称で、妻ないし恋人だけど、この場合は当然、恋人かしら。
私:一般的にはそうだね。ただし出張中の夫の妻に対する気持ちの事もあるだろう。
君:どちらにしても、飛騨地方ってどんなところなのだろう、山や水辺がきれいな素敵なところなんだろうな、と思いめぐらせつつ異性に胸キューンする男性の心を歌っているいるのよね。
私:ロマンチシズムだ。家内と知り合った頃の事を思い出す。挙式が四か月に迫った時期に米国に二週間出張。ホテルで毎日、婚約者に手紙を書いた。
君:ほほほ、想い出は少しも色あせていないのね。私だってあったわよ。
私:聞いている。幸せなご家庭を築いておられると知って本当にうれしい。
君:ほほほ、お互いに今の小さな幸せを大切にしなくてはね。ところで地酒・白真弓はそんな万葉集イメージ(あなたにホの字)のお酒かしら。
私:ははは、それがそうでもない。というか大違いと言ってもいいだろう。白川郷出身、幕末の怪力相撲力士「白真弓肥太右衛門」が有名で、万葉集の事はあまり知られていないだろうね。
君:なんともはや厳ついお相撲さんね。確かにロマンチシズムとは程遠いわね。
私:地酒・白真弓はこの関取の名前にちなんでいる可能性もあるというわけだ。僕なんぞは万葉集に胸キューンがあっているが、多くの人にとっては怪力力士イコール辛口の地酒のイメージだろうね。
君:そうね。ところで古川町細江は万葉の時代からの地名かしら。
私:いや、それは違う。古川町細江は明治八年に七カ村が合併して突然に出来た地名。昭和31年には廃止、古川町に継承された。万葉集の細江は一般名。固有名詞ではない。細江は幅が狭くて奥深い入り江。ただし「和歌初学抄」にはその所在を美濃国とするも「八雲・5」には「清輔抄、美乃に在り、尋ぬべし。但し、飛騨のほそ江の事か」との記載がある。つまり藤原定家は細江を飛騨の地名ではないか、と考えていた。明治八年にどのような経緯で細江の地名が制定されたのかは定かではないが、古来より細江の地名が存在していた可能性は当然あるだろう。
君:でも元禄の検地帳に細江の地名の記載は無いのでしょ。少しばかり怪しいわね。
私:ははは、なるほど。藤原定家の早とちり説だね。万葉集に歌われている事を根拠として固有名詞・細江が存在するのではないだろうか、行った事はないけれど、と思ってしまったんだよね。
君:そもそもが万葉の歌も、飛騨には細江があって、そこにはオシドリがいて、と言う想像の世界を惹起させた歌だものね。ほほほ
私:そうなんだよ。万葉の読み人知らずも、定家も、皆が、斐太ってどんなところなんだろう、って思ってたって事なんだ。がはは
君:そういえば。万葉に飛騨工が枕詞の恋の歌もあったわね。
私:ははは、あるある。かにかくに物は思はじ飛騨人の打つ墨縄のただ一道に。11/2648。
君:意味を簡単に説明してね。
私:お安い御用だ。飛騨工が墨縄でピッと白木に直線を引くように、私の気持ちもあなた一直線です、という意味だな。
君:つまり思い込んだら命がけ。恋は真剣勝負という事よね。今も昔も男女の仲は変わっていないわ。ほほほ

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