大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム 

語源学の基本 なすとトウモロコシ

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私:当サイトの目的は高校生でもわかる方言学。表題は語源学のお話としてとらえるとどんな意味になるでしょう。
君:和語と外来語の違いね。
私:その通り。なすは和語、トウ、モロコシは共に外来語。従ってその複合語も外来語だ。蛇足ながら、たう唐の語は漢字と共に日本に伝わった。もろこし唐土は「諸越」を訓読した語といわれている。諸越は浙江省から安南の地域を指す語。たう、もろこし、の語源については中国人にお尋ねするしかない。
君:トウモロコシは中国から伝わったのでは、と考えてはいけないのよね。
私:そう。ひっかけ問題だ。原産地はメキシコ、ボリビアなどの中南米付近、15世紀末にコロンブスがアメリカ大陸からスペインへ持ち帰った。日本へは1579年にポルトガル人が伝えたのが最初。
君:カンボジアから伝わったからカボチャなのに、どうしてトウモロコシなのかしら。
私:それはとてもいい質問だ。然もちょいと考えればすぐ答えが思い浮かぶ。
君:ほほほ、ポルトガルから伝わった事を知らない人々がかってに命名したからだわ。
私:その通り。多分、中国からもたらされた植物かな、と考えたのでトウモロコシだが、実はトウモロコシ以前、室町時代によく似た植物・コウリャン(高梁)が中国から日本に輸入されていた。コウリャンの別名がモロコシ。コウリャンと区別する為にトウモロコシと呼ぶようになった。
君:ほほほ、語源ロマンスね。
私:ははは、その通り。何も証拠はない。あれこれ事実を紡ぐとなんだか真実のようなものが見えてくるというわけだ。これを形而上学問という。思考実験といってもいいだろう。
君:なすの語源も知りたいわ。
私:それは無理。なにせ和語だから。古代の日本人、つまりは文字を持たなかった時代の人々の心を知れというのは不可能に近いという事。
君:大切な事と言えば、語源学は「わかっているのはここまで」と、はっきりと線を引く事ね。
私:その通り。トウモロコシについては1579年を記憶していても悪くは無いね。それともうひとつ、方言量の観点から是非とも興味を持って欲しい事実がある。
君:方言量というのはひとつの概念に対して全国で何通りの異なった音韻の方言が存在するか、という指標ね。蜩c國男・蝸牛考には蝸牛を意味する全国の方言二百ほどが記載されているわよね。
私:蜩c國男は東京帝大教授の前職が農林省の役人、全国を巡っていらっしゃる。地方に膨大な人脈があった。全国の方言二百を収集出来たのはこの人脈の活用に寄ったからだ。
君:なるほどね。
私:蝸牛の方言量は二百近いが、実はトウモロコシもそうなんだ。百五十ほどだったかな。兎に角、とんでもなく多い量だ。その一方で、なす茄子の方言量は1。
君:なるほどね。北海道から沖縄まで、茄子は茄子。
私:なすとトウモロコシの方言量の違いから、実は古代日本人の心が見えてくる。
君:つまりは古代から、なす、は日本の国の隅々に自生し、古代日本人は単一の言語を使用していたという事ね。
私:その通り。つまりは古代に日本には方言が存在しなかったのかも。
君:しなかったのかも、という事は?
私:おっ、鋭い突っ込み。いいね。事実は逆で方言が存在したかも知れない。つまりは滅びてしまった言葉があったのかも。
君:意外や実は多言語国家の古代日本だったのかも、幾つかの言語が滅び日琉祖語だけが生き延びたのかもしれないわね。
私:そう。なす、は日琉祖語に違いない。方言量1という数字が動かぬ証拠というわけだ。
君:その一方、トウモロコシの方言量その数が百五十については語源の解釈は比較的簡単ね。
私:その通り。例えば、コーラキビ、という地方があるが、高麗+キビの発想だな。
君:飛騨はトーナね。
私:その通り。実は富山方言ではトナワ。トウモロコシは富山から北飛騨にもたらされたであろうから、飛騨では江戸時代辺りにトナワからトーナへの変化があったのだろう。更に語源となると、たう唐+あは粟、そして複合語がリエゾン化、これっきゃないでしょう。
君:確かにそれっきゃないような気がするけれど、直接的な証拠が無いわね。
私:残念ながら証拠はない。万人が納得すれば、それは真実に近いという結論が導かれる。ひとつはっきりしている事は、何やら得体の知れないものに対して人々が寄って集って名前をつけると方言量は多くなる、という事。トウモロコシは好例。
君:ほほほ、私、今気づいた事があるわよ。
私:えっ?
君:和語は2モーラ。やま山、かは川、たに谷、なす茄子、まつ松、・・方言量は全て1。トウモロコシもデンデンムシも6モーラ。トウモロコシ伝来の1579年には日本語の2モーラ語は既に和語で埋め尽くされていて、新語たる外来語が2モーラ語で呼ばれるチャンスがなかったのよ。
私:なる。
君:ほほほ、なるほどの意味ね。
私:茄子・・・ならず。
君:?
私:2モーラの語群に入り込もうとしたが、成す術も無しのトウモロコシ。
君:それは逆でしょ。茄子、方言量1キープを為す。ほほほ

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