大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム 

単語の三要素

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私:昨日は民間語源の成因たる類音牽引についてお話しした。つまりは誤った語源説が生まれるにしても、それなりの理屈があるので、それを考える事もまた重要という意味。
君:表題はただ単に昨日のお話を言い換えただけの事ね。
私:そう。ただし、方言学に於いては、という枕詞がいるね。音韻・意味・アクセント、以上の三つだ。これに関係してよく引き合いに出されるのが言葉の三要素。
君:言語形式・意味内容・言語機能の事ね。
私:それはほんの一例でしょう。他にもある。実は医学の世界でも重要。トリアスという。
君:トリアス?
私:A・B・Cの三つの症状がそろえばDの病気の診断でほぼ決まり、というような考え。実は三症状に対して一病名、というのもトリアスのほんの一例だが。おっと脱線した。方言学に戻ろう。
君:語源を考える際には語源候補の単語の音韻・意味・アクセントをよく考えなさい、という教えね。どなたの言葉かしら。
私:どこにもない。先ほど僕が勝手に考えた。本邦初公開。
君:気持ちはわからないでもないけれど、世の中に広まる考えになるかしらね。
私:そんな事、どうでもいいよ。僕は自分の為に学問をやっている。他人の評価は気にしない。勿論、批判は大いに歓迎したい。
君:なにか具体例があるといいわね。ゲバス・ゲバスルを再度あげるのはインパクトが無いわよ。
私:僕が知っているのは飛騨方言だけ。好例がある。ショウケ(笊の一種)とショウケメシ(炊き込みご飯)だ。
君:語源学的観点に立つとすれば、この二語は類音語というより、後者は前者の派生語のようにも見受けられるわね。
私:おっ、いいぞ。僕が言いたかったことは正にその一言だ。
君:実は後者は前者の派生語ではない、と言いたいのよね。
私:うん。その通り。お忙しい読者の皆様にまずは結論。ショウケ(笊の一種)の語源は、さうけ笊笥。ショウケメシ(炊き込みご飯)の語源は、しおけめし塩気飯。出典は角川古語大辞典、日葡辞書、日本方言大辞典、等々。
君:笊笥と塩気飯は所謂、正しい語源。つまりは語源そのもの。つまりは両者は民間語源ではない、という意味ね。
私:その通り。笊笥と塩気飯については何年もかけてて僕なりに丁寧に調査した。両語は飛騨方言なので、岐阜県・高山市・飛騨市、三者の公式サイトにも掲載されていたが、実は民間語源を紹介していたサイトがあった。笊笥ではなく升受けが語源であろうかという説。つまりは間違い。サイト管理者様に手元の資料と共に質問文の形でお手紙を書いた事がある。当然ながら感謝の返答があり、私の主張はご理解いただけたようで、間違いは正された。まずはめでたし。権威あるサイトの情報発信だから正しい情報を発信しているのだろう、と無批判に受け入れてはいけないと思う。またたとえ相手が権威あるサイトであれ、自分なりに疑問に思う事は問い合わせてみる事だ。
君:ほほほ、あなたらしいと言うか、そんな事があったのね。当サイトの歴史秘話という訳ね。そして、今日はそれを踏まえて単語の三要素のお話をしようという魂胆ね。
私:その通り。ショウケ(笊笥)とショウケ(メシ)(塩気(飯))だが、同じ音韻かつ同じアクセントだが、意味は全く異なる、というのが真相。つまりは同じ音韻かつ同じアクセントだからといって、語源は同じだろうとか、あるいは片方はもう片方の派生語であろうとか、そのように考えてはいけませんよ、というのが結論。
君:意味が同じでなくては、というご主張ね。でも、意味っていくらでもこじつけが可能よ。
私:ははは、その通り。こじつけなら幾らでもできる。つまりは僕の説はこじつけではない。
君:ほほほ、なるほど。確たる証拠というのは、辞書の記載、という事ね。
私:要はそういう事。角川古語大辞典、日葡辞書、日本方言大辞典、等々にちゃんと記載があるじゃないか。これこそ動かぬ証拠ですよ、という論理だ。
君:おっとどっこい、辞書すら間違った記載があるかもしれないわよ。ほほほ
私:それはその通り。物類称呼とか、名語記とか、こじつけオンパレードの不思議な語源辞典、つまりはコアな情報系同人誌もどきなんてのもあるから、決して油断はできないね。正しい語源とは、最終的には考え抜いて自分で判断するしかないんだよ。語源学のさびしさに堪へ炭をつぐ。
君:でも、とりとめのない話は考え詰めないほうがいいわよ。
私:そうだね。特に和語の語源の研究にはナンセンスなものが多い。日本語を周辺諸国の言葉にこじつける論文。
君:ところが母音調和で、案外、真実かも知れないわよ。それに古代から大量の朝鮮語が日本に輸入されたのだし。
私:peninsular Japonic か。なんだかとりとめないな。一時のブームでしょ。幻の縄文語とかね。でも有坂・池上法則は真実だね。
君:着実に語源にたどり着けるのは南西諸島方言・八丈方言と本土方言との比較という事かしらね。こちらは要は日本人同士の言葉の比較なので心情的に理解できるわよね。ほほほ

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