大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム 民話"ぶつ"

民話"ぶつ"

幼い日は、祖父母と同じ部屋で寝て、寝しなによく祖父から民話を聞かせてもらいました。 今でもよく覚えているのが民話"ぶつ"ですが、当家のみの話でしょうか。 どこのご家庭でも語り次がれてきた民話でしょうか。 口調は全て、私の祖父・力三(りきぞう)の言としています。
ぶつ
そしゃ、今夜も話してやるで、ひとつだけ聞きゃええろ。そしたら寝るんやぞ。 今夜ぁわりぃの一番すきな"ぶつ"の話にせるがなあ。 昔々なあ、"こだに"って村に長円寺っていうお寺さんがあったんやけど、そこのお寺さんにゃなあ、 小僧さんもおったんやさ。 ある時なあ、村のひとがよ、
"これ、おいしいボタモチ作ったで、お寺の人でみんなで食いないよ。"
ってなあ、ボタモチをもってござったんやさ。坊様ぁなあ、
"あーれ、うたてえなあ。ありがとう、そしゃみんなでいなだくで。ほんとにいつもすまんなあ。"
ってそのボタモチをもらって、早速、寺の仏さまにお供えで飾らさったんやさ。 それから、坊様ぁ小僧さんを呼んで、
"おりゃ今からとなり村にお勤めに行ってくるでな。 仏さまのとこにボタモチお供えしとるけど、あとでみんなでいなだくんやで。 おりぃが帰ってくるまでボタモチにさわるとだしかんぞ。"
って言って出かけらはったんやさ。 そんで、坊様ぁ出て行ったあとやけどなあ、ちょっと利口な小僧さんのひとりがなあ、
"おりぃにええ考えがあるで。ボタモチゃ、おりぃだち小僧だけで食ってまわんがい。"
って言ったんやさ。他の小僧さんぁなあ、
"なんやってそんなおそがいこと!"
ってとめたんやけど、その利口な小僧さんぁ、
"大丈夫やさあ。"
ってボタモチをパクパクおいしょう食べ始めるもんで、
"そしゃ、おりぃも!"
っててなあ、小僧さんだちみんなでそのボタモチ食ってまったんやさ。 そんでなあ、その利口な小僧さんが、ボタモチのあんこを仏さまの口にくっつけてなあ、
"仏さまがボタモチ食ってまった、ってことにせりゃえんやさ。"
って、みんなですずしい顔しとる事にしたんやさ。 そんで、晩がたしに坊様ぁ帰ってござったんやけど、お供えのボタモチゃ うっつくしょう無くなっとるし、仏さまの口元にボタモチのあんこがついとるし、 小僧どもを呼びつけて、
"誰ぃや、こんな悪さするでっちゃあ。"
って怒らさったんやけど、その利口な小僧さんぁなあ、
"見りゃわかるながいな。仏さまぁ全部食ってまわさったんやさ。 お供えなんやし、仏さまの大好物やったんやさ。"
って言ったんや。そこでなあ、こんな小僧のとんちに負げてまってゃあ、だしかんもんで、 坊様もちょっと考えてからなあ、
"なあんや、そうがよ。そやけど、みんなでいなだくボタモチひとりで食ってまう仏さまも だしかんさなあ。そしゃ、おりゃ懲らしめてやるわい。"
って言ってなあ、その仏さまをばちで思いっきり叩いだらなあ、クワーンって、ええ音ぁしたんやさ。
"どうや、小僧ども聞いたろ。仏さまぁ、今はっきりとなあ、食わん!っておっしゃるながい。 いくらなんでも仏さまぁうそつかれるごたぁあ、ないろ。わりぃだちゃうそついとるんやろ?"
って言わさったんやさ。他の小僧だちゃ、そんで、あれっ!!こわいさ、おりぃだちゃボタモチ食ってまった事が ばれてまったで、って思ったんやけど、 その利口な小僧さんぁ、まんだすずしい顔して、
"坊様、その仏さまぁ、そやげど、ほんとにうそつきやでだしかんさ。 ばちで叩いだくらいでぁボタモチ食ってまったこと 白状なさらんのやさ。釜でうでて、もっと懲らしめんと。"
って言ってなあ、台所の湯気ぁもうもうとしとる釜のなかに 仏さまをドブゥーンと、どぼしこましたんやさ。 そしたらクッタ、クッタ、クッタ、クッタとようけ煮えとる釜やもんで、
"坊様、それ、やっぱり。仏さまぁ、ボタモチ食ったあ、食ったあ、っておっしゃるながいな。 正直な仏さまやで許いでやりゃええながいな。"
って言って、釜から仏さまを出いでなあ、自分が仏さまにひっつけたその口元のあんこをなあ、 きれいに洗って拭いてあげたんやさ。しゃみしゃっきり。