大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム 文法 |
ク活用・シク活用 |
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私:今日は久しぶりに三人の斐太高校の親友と再会し、昔話に花が咲いた。 君:あら、良かったわね。楽しいお話が出来たのね。 私:ああ、楽しかった。三人の女がよればかしましい(姦)が、男四人が集まっても相当に話は盛り上がった。 君:本日の表題とどのように関連があるのかしら。 私:では早速。「かしましい」という意味の飛騨の方言と言えば、何がある? 君:うーん、パッと思いつかないわ。「騒々しい」「騒がしい」「賑わしい」「かまびすしい」「やかましい」「くちやかましい」「けたたましい」等々の共通語は思い浮かべられるけど。 私:ははは、すべて「しい」で終わる形容詞、つまりシク活用形容詞。どうしてク活用形容詞が出て来ないのだろうね。 君:うーん、共通語ですらク活用形容詞が無い浮かばないわね。ましてや飛騨方言のク活用形容詞となると。 私:でも僕は「かしましい」の意味の飛騨方言の形容詞を知っている。それは若しかしてシク活用の形容詞かなと思わないかい。 君:そうね。ヒントがあれば飛騨方言の形シク「かしましい」を思いつくかも。 私:ヒントは「そう騒」。 君:つまりは「そう・・しい」という飛騨方言の形容詞ね。・・わかったわ。「そうましい」。 私:その通り。「そうましい」は飛騨方言だ。語源は勿論、「騒」だが、「そうましい」は「そうがましい」から派生した言葉だ。各地の方言になっている。語源は「さうざうし寂々」形シクである事は書かずもがな。更には角川古語大辞典全五巻には「さうがし騒」形シクの記載もある。 君:つまりは古語のシク活用形容詞が現代口語になろうが、全国各地の方言形容詞になろうが、相変わらずシク活用という事をおっしゃりたいのよね。 私:その通り。一般の国民の皆様の認識とすれば、形容詞のク活用・シク活用と言えば、そう言えば学校文法で習ったな、程度の認識だろう。根本的に違いがある事は習わなかった、或いは忘れてしまった。 君:つまりはたった一文字「し」があるかないかの事だけど、ただ単に気まぐれにシク活用だったりク活用だったり、という事ではないとおっしゃりたいのよね。ほほほ 私:君も回りくどいな。実は初めから答えを知っていたくせに。それじゃク活用・シク活用の違いをお披露目してくれ。一言でお願いだ。 君:ほほほ。つまりは感情の有無。有ればシク活用、無ければク活用なのよ。 私:その通りだ。赤い、とか、高い、とか言うけど直接的な感情表現ではない。赤いのが好きな人もいれば、赤が苦手な人もいる。僕はシク活用と言えば、真っ先に思い浮かぶのがあの形容詞だ。 君:あなたの感情をあててみてと言われても。あなたの喜怒哀楽がわからなければ、言い当てられないわよ。 私:ではヒント。今日は実に五十年ぶりという感じで高校の同級生が四人集まった。恋愛談義に花が咲いた。 君:強烈なヒントね。というか、ヒントもなにも、答えを教えてしまっているじゃない。あなたにとってシク活用とは「恋しい」「愛しい」という事なのよね。 私:そうだね。青春の甘酸っぱい初恋の思い出ってやつだよね。僕の斐校時代と言えば1969−72だが、SNSが有る訳で無し、不退転の気持ちで手紙を書くか、電話をするか、男たちは必死の思いだったんだよ。 君:女は悲しいわ。恥ずかしくて意思表示なんてできないし、女も異性を思う気持ちは同じよ。女は一般的には先輩に憧れるものなのよ。つまりは同級生男子が子供に見えてしまうのよね。先輩がご卒業なさる時に第二ボタンをもらうというのが幸せへの第一歩だわ。続いては彼が進学なさった大学へ自分も後を追う事よ。同郷の輪があるし、お互いが大学生ともなれば大人のお付き合いの始まり。女の最大の武器は若さ。卒業時に別れ話が出なければ、後はプロポーズを待つだけ。 私:なるほどね。君も学生時代、或いは独身時代は異性の事でそれなりの葛藤があったのだろうね。ぶしつけな質問で御免なさい。 君:はずかしいわ。聞かないで。楽しい思い出も、悔しい思い出も、全て、かつて住んでいた町にそっと置いてきたわよ。なつかしいわ。 私:いやあ、シク尽くめで感情表現が豊かだね。君って可愛らしい、初々しい、しおらしい、いじらしい、したわしい、うるわしい、そんな君が「恋しい」「愛しい」。 君:貴方ってなれなれしい、あほらしい、わずらわしい。 私:えっ、僕って悲しきピエロ。とほほ 君:しかも嫌味たらしい。ほほほ まとめ ★文語で形容詞がク活用・シク活用に分かれたのは、形容詞が感情表現をしない形容詞(ク活用)とする形容詞(シク活用)に分かれたからです。それはそのまま口語にも引き継がれ、方言の世界においても文語ク活用形容詞がシク活用になったり、文語シク活用形容詞がク活用になる事はありません。 ★シク活用形容詞は主観的な感情表現の機能の為の品詞です。別名は「感情形容詞」です。ただし、「わろし悪」形クのような例外もあるではないか、という御意見もあろうかと思います。ところが「わろし」は実は「あし悪」形シクから派生した言葉で、やや「あし」、比較的「あし」、ちょっぴり「あし」と言うような意味で「あしかろ」辺りから出た言葉、従って原義は形シク形容詞「あし悪」の比較級です。なんとかご納得いただけるのではないでしょうか。 ★他方のク活用形容詞ですが、客観的な状態・性質を表す機能の品詞で、別名が「状態形容詞」です。 ★活用面となると、文語と口語ではがらりと変わります。ク活用とシク活用の区別は実は文語の世界のみです。口語では連体形の終止形化、つまりは体言止め、つまりは終止形の消滅により、二者の活用は同一になってしまいました。従って文語シク活用も「〜し」までを語幹として扱う事が出来るようになりました。従って口語(現代語)ではク活用・シク活用の別を立てなくなり初等国語教育では不要の知識となったのです。その一方、「感情形容詞」と「状態形容詞」の二別は文語・口語に共通する概念です。 |
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