大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム 文法 |
中等文法 |
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私:文法と言うものに急に興味を抱くようになった、と言えば大げさだけど、「言海」の前半部分に「語法指南」という節がある事に気づいたのがきっかけだったかな。 彼:それまでは国文法というものは何だと思っておられたのですか。 私:理系だからね、国学の知識があるわけでなし、高校三年間に古文という薄い教科書を学んだだけ。それと高校生になると英語がリーダーと文法に別れる。つまりは口語文法も文語文法も明治時代になって外国文化、主に英語文法、の直輸入、そしてその日本語訳として様々な文法語が生まれたのかな、と漠然と考えていたんだよ。 彼:SVOCなどの直訳だと思われたのですね。 私:その通り。格の概念、動詞の自他、時相の概念、能動受動、等々。英文法は得意中の得意で教師に過ちを指摘した事もある。 彼:でも英語と違って日本語は膠着語ですよ。助詞・助動詞という言葉はどうして生まれたのだろう、などどお考えだったのではないですか。 私:思わないどころか、教科書は間違っている、と叫びそうになった。 彼:ははは、どういう事ですか。 私:英文法では前置詞 preposition と習う。となれば助詞・助動詞は後置詞 postposition でいいんじゃないか。高校生の単細胞は、英文法は歴史があり洗練された完成品・だから国文法は明治に英文法を訳して出来たに違いない・となるとどうして国文法では後置詞といわないのか・助詞という言い方は間違いじゃないか、というロジック。当時の僕は大変に不思議だった。 彼:今はどうですか。 私:この数日だが、英文法と国文法は違う世界につき、明治以来の多くの先人達の業績がある事を知るに及んで、なるほどそうだったのか、という感じだな。 彼:では、早速に中等文法について。 私:別名が学校文法だが、所謂、完成品にて議論する事もないトピックスかという認識だったが、世の中には、学校文法は本当に正しいのか、とか、文法学者の数だけ国文法説がある、という事が驚きだったね。戦後すぐの中等文法(口語並びに文語)だが、キーマンがいる事も知った。岩淵悦太郎。簡単にひと言、橋本進吉の一番弟子、大抜擢は良かったものの突然に橋本先生がお亡くなりになり茫然自失、やけくそで中等文法をお書きになった。 彼:論点は二つ、帰納的教授法と文節、のようですが、どう思われますか。 私:帰納的だなんて冗談じゃない、やめてくれ。文節・フレーズについては異論はない。 彼:帰納的がお好きでなければ演繹的教授法ならオッケーですか。 私:そもそもが文法というのは演繹そのものじゃないか。 彼:具体例は。 私:俺は第一人称代名詞。拙者もそう。僕もそう。従って俺、拙者、僕のような、男が自分を示す単語は第一人称代名詞である。これが帰納法。 彼:これは演繹論ではどうなりますか。 私:俺は第一人称代名詞。つまり男が自分を示す単語は第一人称代名詞。男を示す単語には他に拙者がある。となると拙者も第一人称代名詞。これが演繹法。 彼:つまりは。 私:多くの事例が真である事を確認する。その中から共通の真理を抽出する。それが一般真理であることを認識する。これが帰納法。一つの事例に真理を発見する。これを一般的な心理ととらえる。この一般的真理を応用し、他の個々の事例に一般的心理が当てはまる事を確認する。これが演繹法。帰納法は一般知識の詰め込み主義、演繹法は心理の応用。三つの単語から第一人称代名詞という概念に気づくのが帰納。俺が当てはまるなら、私・あたい・うち、これらも女性の第一人称代名詞なのかと気づくのが演繹。つまりは帰納は演繹の一部分でしかない。 彼:佐七さんにとっては帰納と演繹は微妙な違いでは済まされる問題ではないのですね。 私:まあね。哲学をする人以外、日常生活ではどうでもよい事。折角だから、助詞・助動詞をさらりとお話しして今夜は終わりとしよう。助詞の名付け親がいる。誰? 彼:あまり考えた事がないですね。 私:山田文法の山田孝雄だ。「日本文法論」上巻。 彼:それまでもいろんな言い方があったのですね。 私:おっ、いい勘しているね。国学以来、長らく「てにをは」と呼ばれていた。係助詞「は」ではなく、「は」てにをは。いくら何でも冗長だという事で、明治にこれが百花繚乱。動助辞、動辞、後詞、後置詞、関係詞、神詞、霊詞、など、文法学者がいろんな言葉を使いだいた。 彼:おっ、サ行イ音便。しかも、ははは、やりましたね、大西佐七魂躍如タリ。「後置詞」があるじゃないですか。 私:まあね。ただし西洋文典の直訳は駄目だ、という事で普及しなかった。神詞、霊詞なんて言葉を見るとユーモアを感じちゃうね。動詞の意味が霊験あらたかにササッと意味が変わる事をよく表している。ぶふっ 彼:でも山田孝雄先生のおかげで、今日現在、皆が助詞という言葉を気持ちよく使わせていただいているのですね。 私:そういう事。山田先生、本当にありがとう! 彼:それと親分が突然お亡くなりになってもめげずに中等文法を書き上げてくださった子分の先生にも感謝ですね。 |
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