大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム 文法 |
二拍動詞におけるサ行イ音便 |
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私:サ行イ音便とはサ行動詞の連用形がイ音便になる事で飛騨方言の特徴の一つ、室町時代には廃れてしまった京言葉。今夜は洗い出しをしてみたい。 君:つまりは時間があるという事ね。 私:うん、娘と孫が入れ替わり実家たる我が家にいたので、この二日は時間が無かった。今は嵐の後の静けさだ。リモコン等が孫達の遊び道具になって設定が滅茶苦茶に。それを直し終わったところ。さて、音便が生ずるのは二拍以上の動詞だから一拍動詞は議論の余地が無いね。 君:然もカ行動詞イ音便と同音異義語になる動詞のペアを洗い出すという事なんでしょ。そもそもが口語には一拍動詞なんて存在しないわよ。文語では自ワ上二「う居・坐」、他ア下二「う得」、自カ変「く来」、自サ変・他サ変「す為」、自ダ下二「づ出」、自ナ下二「ぬ寝」。自ハ下ニ「ふ経」、他ハ下ニ「ふ綜」、他ハ上ニ「ふ嚔」のみなのでサ行イ音便問題は論外ね。口語では皆、「る」がくっついちゃったのだわ。 私:うん、「うくすづぬふふふ」か。覚えておこう。「きて来・して為」とて音便は論外だ。 君:二拍だとイロハ48に順番に「いて」をくっつける作業をするのね。 私:その通り。早速にアから行こう。「あいて」とくれば「空く」というカ行動詞はあるが「あす」というサ行動詞は無いので、「あいて」は結局はアウト、と言う感じで。 「おいて」「おく」「おす」 「かいて」「か\く」「かす」 「さいて」「さく」「さ\す」 「しいて」「しく」「し\す」 「たいて」「たく」「たす」 「ないて」「なく」「な\す」 「ふいて」「ふく」「ふ\す」 「まいて」「ま\く」「ます」 「むいて」「むく」「む\す」 君:意外に少ないわね。九つのうちアクセントが一致しているのが「おいて」「たいて」の二つだけど、全く使えないわね。 私:残り七つだが、これも大問題。ほとんど使われないと思う。カ行動詞は全例がイ音便だから、要はサ行動詞がイ音便なのか、という問題だけど、飛騨でも普通に「貸して」「死して」「為して」「ふして」「まして」と言うんだよ。つまりは二拍動詞で残ったのは「さいて(刺して)」と「むいで(蒸して)」この二つだけがサ行イ音便だ。 君:つまりは二拍動詞のサ行イ音便は「挿す・蒸す」の二つだけね。 私:そういう事。 君:「咲く・挿す」で「咲いだ花を挿いだ・挿いだ花が咲いだ」を作ったのだから、「剥く・蒸す」で一句、考えてみてね。 私:うん。「栗を蒸いだ・蒸いだ栗を剥いだ」、ところが困った問題がひとつ、「むく」だが連用形になるとどうしても内省すると頭高になってしまう。話が長くなってしまうけれどゴメンネ。飛騨方言における二拍動詞には平板型(売る・聞く・積む・着る・寝る、等々)と頭高(書く・切る・飲む・来る・出る・見る、等々)の二群に分かれる。平板型の特徴として連用形+過去の助動詞「た」が二拍動詞連用形に接続した場合は三つに分かれるんだ。ひとつは促音便+「た」は中高(売った)、イ音便は頭高(聞\いた、む\いた)、音便化しないサ行五段動詞は中高(貸し\た)。つまりは「むいだくりをむいだ」の場合はアクセントの区別が無いのにサ行イ音便が残ったというパターンなんだ。(*) 君:ほほほ、栗を蒸して剥こうが、栗を剥いて蒸そうが、あまり深い意味は無いという事よね。 私:そういう事。つまりは意味の混同を嫌うならばサ行イ音便はそもそも使わなければよいというロジックになる。 君:つまりはサ行イ音便という幻想。飛騨方言ロマンスね。二拍では話にならないという事ね。サ行イ音便のロマンスが花咲くのは三拍以上の動詞という事なのよね。ほほほ (*)鏡味明克カガミ アキカツ(Akikatsu Kagami)方言学講座第二巻346頁 |
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