方言は若い世代ではあまり話されなくなり、
私も面識のない飛騨出身の方には勿論、つい共通語でお話ししてしまいます。
ただし、共通語の終助詞・間投助詞とて飛騨独特の微妙な抑揚があり、
そのような抑揚でお話しなされば、たとえばです・ます調の共通語会話でも、十分に飛騨出身者同士で共感し合えるものです。
飛騨方言で用いられる終助詞・間投助詞は、共通語でのそれとは相当に違いますが、
ことさらそのような助詞を用いる必要はないのです。
ところでこの飛騨独特の、微妙な抑揚については、そもそも記載が無理な以上、議論もできませんが、
飛騨方言としては明らかに不自然であるという共通語終助詞・間投助詞があります。
飛騨出身者同士でこれらの言葉、いわゆる他所他所しい言葉、を使ってしまっては共感は生まれないというわけです。
前項、飛騨方言で用いられる終助詞・間投助詞のアンチテーゼです。
一例を挙げますと、〜だぜ、〜ぜ、という言い回しは飛騨方言としては完全にアウトです。また、飛騨は山国で
海が見えないものですから、"ここは波止場だぜ、七つの海が俺を呼んでるぜ。"と、一言でも言おうものなら
もはや飛騨方言ではないどころか、きざ以外のなにものでもない、という事になります。
(なんじゃわりゃ一ヶ月ほど、ほんのちょびっと東京に住んだだけで、
いくら東京湾で海みたってたって、いさってまって、だしかんぞ。)
と思われてしまうのです。(=あなた一ヶ月ほど東京に住んで東京湾で海を見たからといって、そんなに威張ってはだめですね。)
掲載順
終助詞
ネ(エ)、ヨ、ナ、ワ、サ、ゾ、ゼ、カ(イ)、 イ、 ノ
その他 (モノ、カシラ、ッテ、ッケ、ヤ、トモ)
間投助詞
ネ、ヨ、サ、ナ
終助詞
[同意] ね(え) な(あ)
「今日は寒いね。 「今日は寒いな」
これは使用しても飛騨方言アウトにはなりません。
[確認] ね(え) な(あ)
「これはあなたのカサですね↑」「こりゃわりぃのカサやな↑」
これは使用しても飛騨方言アウトにはなりません。
[主張]
それは違いますね(え)。 そりゃ違いますな(あ)。
これは使用しても飛騨方言アウトにはなりません。
(相手の考えに反対して)
私は、そうは思いませんねえ。 わたしゃ、そうは思いませんなあ。
[依頼・命令と]
これから私の家へ来ないかね。 これからおりぃんどこへ来んかな。
これは実は飛騨方言完全アウトです。こんな言い方をしてしまったら、
(なに、わりゃきどった、やくたいもない東京語つかって、いさってまって
たあけらしょうて、誰がわりぃんどこなんかいってやるがい。)
と思われるでしょう。共通語訳しますと、以下の通りです。
(なにをあなたは気取ったしようもない東京語をつかって、いばってしまって
ばかばかしくて、誰が貴方の家なんかに行ってあげるものですか)
[疑問文と]
あした、君も行くかね? あした、わりぃも行くんかな?
これも飛騨方言完全アウトです。理屈ではありません。
この件はどうなったのかね? この件はどうなったんやな?
これも飛騨方言完全アウトです。理屈ではありません。
先生、これでいいですかねえ。 先生、これでえんかなあ。
そろそろ始まりますかね。 そろそろ始まりますかな。
どう(です)かねえ。 どう(です)かなあ。
以上三つは使用しても飛騨方言アウトにはなりません。
願望を表す場合
雨が降らない(です)かねえ。 雨が降りませんかなあ。
雨が降らないかなあ。 雨が降らんかなあ。
これは使用しても飛騨方言アウトにはなりません。
[男女の使い方の差]
男:きれいだね。 きれいやな。
これだね。 これやな。
見るんだね。 見るんやな。
女:きれいね。 きれいやな。
見るのね。 見るんやな。
これらは全て、飛騨方言完全アウトです。
よ:主張・明示
「この本は面白いですか」 「この本は面白いかな」
「ええ、面白いですよ↑」 「はあ、面白いぜな↑」
それはおいしくないですよ。 そりゃおいしゅうないぜな。
やめたほうがいいですよ。 やめたほうがええぜな。
「これ、おいしいですね」 「こりゃ、おいしいですな」
「いやあ、まずいですよ↓」 「いやあ、まずいぜな↓」
これは使用しても飛騨方言アウトにはなりません。
泉さんが来ましたよ。↑/↓ 泉さんが来ましたぜな。↑/↓
あ、カサを忘れていますよ!↑ あ、カサ忘れとるぜな!↑
これは使用しても飛騨方言アウトにはなりません。
よ:命令、依頼
明日来てくださいよ。 明日来てくりょよ。他
これは使用しても飛騨方言アウトにはなりません。
よ:反語
あいつがこんなところへ来るかよ。 あいつぁこんなどこへ来るがい。
これは使用しても飛騨方言アウトにはなりません。
こんなこと書いたの、誰だよ。 こんなごと書いだのぁ、誰やい。
これらは全て、飛騨方言完全アウトです。
誰が書いたんだよ。 だりゃ書いたんやい。
だよ、というのは飛騨方言完全アウトです。
電話した?いつよ。 電話した?いつやい。
いつかけたのよ。 いつかけたんやい。
見合いの相手って、どんな人よ。 見合いの相手って、どんな人やい。
これら三つの文は使用しても飛騨方言アウトにはなりません。
それどころか、寧ろ飛騨方言らしい文ともいえます。
[よね]「自分の主張」+「相手への配慮」
これでいいよね(え)。 これでええさな(あ)。
会は3時からだったよね。 会は3時からやったな。
これらは飛騨方言アウトです。
泉さん、明日は休みですよね。泉さん、明日は休みやな。
これらは使用しても飛騨方言アウトにはなりません。
[男女の使い方の差]
男 きれいだよ。これだよ。 きれいやぞ。これやぞ。
これらは飛騨方言完全アウトです。
女 きれいよ。これよ。いい(わ)よ。 きれいやよ。これやよ。ええよ。
これらは飛騨方言アウトぎみです。
19.1.3 な(あ)
a.禁止
行くな!眠るな! 行くな!眠るな!
c.感嘆
きれいだなあ。 きれいやなあ。
d.確認
これはだめだな。 こりゃだめやな。
依頼・勧誘
これを下さいな。 これを下さらんがな。
以上は使用しても飛騨方言アウトにはなりません。
わ
いいわ。/いいですわ。 ええよ。/ええですわ。
行くわ。/行きますわ。 行くわ。/行きますわ。
そう、そうだわ。 → そう、そうやよ。 →
そう、そう(だ)よ。 そう、そやよ。
いい?いくわよ! → ええ?いくよ! →
これらは全て、飛騨方言完全アウトです。
さ
まあ、いいさ。 まあ、ええさ。
やってもむださ。 やってもむだやさ。
勝つに決まっているさ。 勝つに決まっとるさ。
以上は使用しても飛騨方言アウトにはなりません。
え?、アメリカ行くって? え?、アメリカ行くって?
いつさ。誰と行くのさ。 いつやい。誰と行くんやい。
これ、何のつもりさ。 こりゃ何のつもりやい
ところがこの二文は飛騨方言完全アウトです。
ぞ
俺はあきらめないぞ。 おりゃはあきらめんぞ。
絶対に行くぞ。 絶対に行くぞ。
いいぞ。やれやれ。 ええぞ。やれやれ。
そんな事いうと、殴るぞ。 そんな事そうと、殴るぞ。
よーし、やるぞー。 よーし、やるぞー。
以上は使用しても飛騨方言アウトにはなりません。
絶対にだめだぞ。 絶対にだめやぞ。
おまえはまだ中学生だぞ。 わりゃはまんだ中学生やぞ。
ところがこの二文は飛騨方言アウトぎみです。
ぜ
おい、やつが来るぜ。 おい、ありゃあ来るぞ。
飛騨方言完全アウトの典型例です。
か(い)疑問文
一緒に行くかい? 一緒に行くがい?
もういいかい。 もうええがいい。
使用しても飛騨方言アウトにはなりません。
い 断定
どうだい、こんなもんだい。 どうやい、こんなもんやぞ。
飛騨方言完全アウトの典型例です。
の 説明の「〜のだ」疑問・納得
「うん、もういいの」(女) 「うん、もうえんやよ」(女)
使用しても飛騨方言アウトにはなりません。
疑問の場合は「〜のか(い)」 丁寧体古風な女性の言い方。
いいんですの。 えんですかな。
なさいますの? なさいますかな?
使用しても飛騨方言アウトにはなりません。
その他
[もの]形式名詞。理由づけ、いいわけ
そのぐらい分かりますよ。 そのぐらい分かりますさ。
いちおう、大学生ですもの。 いちおう、大学生ですもんで。
だって、きらいなんだもの/もん。 そやけど、きらいなんだもんで。
困っちゃったよ。誰も来ないんだもん。 困ってまったさ。誰も来んもんで。
飛騨方言完全アウトの典型例です。
絶対安いよ。何たってものがいいもの。 絶対安いよ。何たってものがええで。
使用しても飛騨方言アウトにはなりません。
[かしら]
雨が降るかしら。 雨が降るかしらん。
使用しても飛騨方言アウトにはなりません。
[って]引用の助詞「と」の代用
彼、辞めたって。 ありゃ辞めたって。
使用しても飛騨方言アウトにはなりません。
[っけ]確認
君の車、何だっけ。 わりゃ車、何やったが。
あの人、まだ高校生だって。 ありゃあ、まんだ高校生やとよ。
きょうは木曜日だったっけ。 きょうは木曜日やったが。
彼女は、今日は来ないんだ(った)っけ。 ありぃは、今日は来んのやったが。
使用しても飛騨方言アウトにはなりません。
[や]相手に軽く主張意志形や命令形
「どれにする?」 「どれにせる?」
もういい加減にやめろや。 もういい加減にやめとけよ。
使用しても飛騨方言アウトにはなりません。
「そうだなあ。これでいいや」 「そうやあ。これでええさ」
これは無理だよ。やめとこうや。 こりゃ無理やさ。やめとかまい。
飛騨方言アウトです。
[とも]もちろんだ、という気持ちを表す男ことば。
「もちろん行くとも」 「もちろんくるさ」
使用しても飛騨方言アウトにはなりません。
間投助詞
ね 共通語 あのね、これはね、きのうね、新宿でね、・・・
よ 共通語 あのよお、俺よお、きのうよお、・・・
さ 共通語 あのさあ、きのうさあ、買物に行ったんだけどさあ、・・・
な 共通語 あのな、おれはな、これでもな、かまわないけどな、・・・
以上は使用しても飛騨方言アウトにはなりません。
参考 geocities.jp/niwasaburoo/index.html
庭 三郎 の 現代日本語文法概説