大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム |
なふ |
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私:昨晩は飛騨方言の動ハ四「いなふ(になふ)」をご紹介した。 君:ほほほ、わかるわかる。「なふ」が動詞の造語機能のある接尾語である事に気づいて、他にも無いか、一日中、考え続けたのよね。 私:結論だが、結構ある。飛騨方言とは直接的には関係ないかも知れぬが、私の最大の関心事が国語の歴史。何卒、ご容赦を。 君:そんな事、いいから。手短にね。 私:そう言われてもね。ではなるべく簡単に参りましょう あがなふ贖・・金品等で許しを請う意。室町までは、あかふ。以後は、あがなふ。 あきなふ商・・「あき」は商売の意。宇津保に例。 あざなふ糾・・交差させる事。「あざ」は校倉(あぜくら)の「あぜ」と同根。禍福はあざなへるなはの如し。八犬伝。 いさなふ誘・・いざなふ、とも。勧誘する。感動詞「いざ」の動詞化。万葉等。 うしなふ失・・動サ下二うす失(万葉の例)、の転。源氏等。 うべなふ諾・・納得する。「うべ宣」の動詞化。むべなふ、とも。上代。 うらなふ占・・「うら占」に、なふ、がついたもの。古くは、うらふ、うらどふ。 おぎなふ補・・古くは、おぎのふ、おぎのふ。「おき置」+「ぬふ縫」、つまりパッチワークの意味から。 おこなふ行・・をこなふ、とも。仏道の修行、から。 おとなふ音・・音をたてる、訪問する、の意。玄関をノックする。 しなふ橈・・・しなやか、しなゆ、から。たわむ、は曲がりを跳ね返す事。しなふ、は単に曲がる事。 そこなふ損・・動ナ下ニ「そこぬ損」に接尾語「ふ」を添えた形。 つくなふ蹲・・つくばふ、に同じ。 つぐなふ償・・つくのふ・つぐのふ、の転。 つみなふ罪・・処罰する、の意。上古。 ともなふ伴・・名詞「とも伴・共」から。万葉。 まかなふ賄・・「まうく設」などと同根。記・上。 やしなふ養・・現代語と同意。記歌謡。 君:よく頑張って探し当てたわね。でも。羅列じゃない。総括してよ。 私:はいはい、頭がクラクラだけど、総括しよう。注目すべきは、いざなう、ともなう、やしなう。この三語は現代語に生きている上古の言葉。意味も変化していない。 君:消滅した動詞も多いわね。 私:いや。古語で、おとなふ、だが、現代語、おとづれる、に生きているぜ。ぶふっ 君:つぐなう、も現代語よ。 私:ただし、つぐなふ、は上古ではないようだ。 君:「そこなふ」も特殊ね。 私:その通り。接尾語が「なふ」じゃなくて、「ふ」だからね。「ふ」とは動詞未然形について動作を続けるという意味だから。「たたく叩」+「ふ」で「たたかふ戦」と同じ理屈だな。たたかへばそこなふ、と覚えておこう。笑えないウクライナ情勢。嗚呼 君:語幹からの類推で意味が決まる動詞が多いのね。 私:そりゃあもう、「なふ」が接尾語である所以だ。 君:それにしても、いざなう、の語幹は笑っちゃうわね。 私:人はいさ心も知らず ふるさとは花ぞ昔の香ににほひける 君:ほほほ、ただし、おぎなふ、の場合、「なふ」は実は「ぬふ縫」だったのね。つまりは複合動詞。 私:その通りだ。語源論の底深さを感ずる。こりゃあ、一生、勉強が続くな。 君:ことふりにたれど、あしたに道を聞かば夕べに死すとも可なり。 私:高校の古典じゃ今回のような、ややディープな事までは教えないしなあ。第一に、高校生が持つ古語辞典は貧弱すぎるんだよ。辞書は角川古語大辞典全五巻が一番。僕の宝物。 君:古典文学へのいざないね。吾が君こそモチベーションうしなひたもうこと無かれ。吾君社勿失給事動機付。ほほほ |
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